『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、河野太郎行革相と菅首相の関係について指摘する。
(この記事は、9月28日発売の『週刊プレイボーイ41号』に掲載されたものです)
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河野太郎行革相の発信力が注目を集めている。菅義偉(すが・よしひで)首相から「省庁の縦割りを打破するため、『縦割り110番』のようなものがほしい」と指示されるや、その翌日に自身のホームページに「行政改革目安箱」をスピード開設、わずか1日で4000件近い情報提供が殺到したという。
その目安箱は河野大臣個人のHP上に開設されたため、個人情報保護に不安があるといった批判も寄せられたが、基本的にはネットを中心に「スピード感がある」「すごい突破力」など好意的な評価が相次いだ。
河野行革相の初パフォーマンスは菅政権の支持率アップに貢献したといえるだろう。多くの人々が菅首相と河野行革相の「神奈川コンビ」がタッグを組み、これからもしっかりと仕事をこなしてくれるはずと新政権への期待を高めたはずだ。
しかし、そうした見方は美しき誤解かもしれない。なぜなら、菅首相と河野行革相は本質的には政敵同士だからだ。
来年9月には自民党総裁選がある。そこに菅首相、河野行革相は共に出馬する公算が大だ。そのときにはふたりは総裁の座をめぐり激しく争うことになる。つまり、両者は一見、協力して行革に乗り出す同志のように見えるが、実際は蹴落とさないといけないライバルとして呉越同舟(ごえつどうしゅう)的な関係にあるのだ。
その意味で、「行政改革目安箱」設置は菅首相にしてみれば、突破力のある河野行革相を利用し、新政権の仕事ぶりを国民にアピールするためのネタのひとつにすぎない。本当に改革をやろうとすれば、政官界の抵抗に直面する。
主要5派閥の支持を受けて政権の座に就いた菅首相は来年の総裁選でも彼らの支持を得ることが勝利の条件だから、派閥のボスや族議員、霞が関の官僚の連合体と本気で戦って大きな「改革」を完遂するのはほぼ絶望的だとみたほうがいいだろう。
一方の河野行革相もそんな菅首相の計算をよくわかっていて、「新内閣が打ち出した行政の縦割り打破は、所詮(しょせん)はパフォーマンス。『行政改革目安箱』の開設もさくさくと済ませてしまおう」と流してしまったフシがある。だからこそ、「4000件」というPRをしたところでさっさと店じまいしたのではないか?
この見立てが正しければ、菅政権下での縦割り行政の解消は、せいぜい省庁にまたがる許認可手続きのワンストップ化(窓口一元化)や、予算要求と調達の一元化程度で終わる可能性が高い。
ただ"政界の異端児"と呼ばれる河野行革相のことだ。行革を任せられたのだからと、菅首相にとって予想外の改革メニューを考えているかもしれない。
そこで提案だ。河野行革相には、菅政権が触れていないグリーン(環境)関連政策、なかでも脱原発や再生可能エネルギー普及につながる行革を打ち出してほしい。とりわけ脱原発は、かつては彼の看板政策だったが、原発推進・再エネ普及に冷淡な安倍内閣で大臣に起用されてからはこれを封印していた。
しかし、安倍政権から菅政権に代わった今、その封印を解くべきだ。そうすれば、菅首相と水面下でせめぎ合いになり、ふたりの呉越同舟の均衡は崩れる。
この緊張関係は"次の首相"を狙っている茂木敏充(もてぎ・としみつ)外相や加藤勝信官房長官らとの間でも起きうるだろう。そのとき初めて河野行革相の真価が発揮されるはずだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中