昨年10月に北京で行なわれた軍事パレードで初披露されたDF-17。日本も射程におさめる沿岸部への配備は今回が初めてだ

香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は10月18日、ある情報筋の話として、台湾に近い中国沿岸部に中国軍の最新鋭の極超音速ミサイル「DF-17」が配備されたと報じた。

航空評論家の嶋田久典氏が説明する。

「DF-17の弾頭部分は滑空体で、マッハ5以上で目標に向かう。従来の弾道ミサイルのように放物線を描くわけではないため、迎撃コースを設定するのが困難な兵器です。

また、DF-17の最大射程は2500kmで、配備されたとされる地点からは日本も射程圏内に入ります。日本やアメリカからすれば、発射された際にその標的が台湾だけなのか、それとも日本や在日米軍基地も含まれるのかという判断に迷うことにもなるでしょう」

近年、中国は台湾の対岸地域の軍備・兵力を増強してきたが、今回はそのなかでも最もインパクトのある出来事だ。

その直前の9月には、米トランプ政権が台湾に7種類の最新兵器システムを輸出する用意を進めているとの報道もあった。

「内容はF-16V戦闘機66機、M-1エイブラムス戦車108両、巡航ミサイル、対艦ミサイル、ドローン、魚雷、機雷などです。これは台湾の外交的孤立を防ぐために今年3月にトランプ大統領が署名した『台北法案』に基づくもので、議会でも可決されているため大統領選挙の結果には影響されません」(嶋田氏)

香港の"中国化"を目の当たりにした台湾の蔡 英文(ツァイ・インウェン)総統は危機感を強めている。今年だけでアメリカからの兵器輸入総額は70億ドル(約7350億円)に上り、来年度の国防予算も史上最大規模となる見込みだ。そうした背景を考えると、中国のDF-17配備は米台接近に対する警告のメッセージとみるべきだろう。

ただ、それだけではなく、DF-17の"標的"はすでに決まっているという見方もある。嶋田氏が続ける。

「台湾北西部の樂山(標高2500m級)では、米軍の『EWR』という直径30mの巨大な戦略レーダーがすでに稼働しています。探知距離は3500km以上とされ、中国内陸部や南シナ海までの空域をカバーしています。

このレーダーには台湾有事への対応のみならず、米本土へ向けて地上や潜水艦から発射される中国軍の戦略弾道ミサイルを監視する目的もあり、米本土から運用要員が派遣されています。中国は、台湾侵攻の際にはまずこの"アメリカの眼"をDF-17で叩こうと考えているでしょう」

逆に言えば、このレーダーが攻撃されればアメリカは"即介入"する可能性が高いということでもあるが......。

ともあれ、中台関係はギリギリの緊張状態が続いている。台湾国防部によると、9月には中国軍の戦闘機が延べ40機以上も台湾南西の防空識別圏に侵入し、台湾側もスクランブル対応したという。

しかも嶋田氏によれば、「発表されたのは一部にすぎず、実際にはドッグファイト(戦闘機同士の空戦)があったとの非公式情報もある」というから穏やかではない。

そんな状況下で行なわれたDF-17の配備。中台関係はまさに一触即発だ。