海自の最新型イージス艦まや。Mk41VLS(甲板埋め込み垂直発射筒)96セルを搭載する

11月16日、ハワイ北東沖で、最新型の弾道ミサイル防衛システム「SM3ブロック2A」が、ハワイから約4000km離れたマーシャル諸島の米軍発射基地から放たれたICBM大陸間弾道ミサイルに模擬した標的を、見事に大気圏外で撃墜することに成功した。

このSM3ブロック2Aは、BMD(Ballistic Missile Defense=弾道ミサイル防衛)イージス艦に搭載される。日米が共同開発しており、三菱重工業がミサイル先端部のノーズコーンと第三段ロケットモーターを開発している。

この撃墜成功により、北朝鮮が発射する対米国ICBMの攻撃を防げる可能性が出てきた。しかし現在、海自の艦でSM3ブロック2Aを発射できるのは、今年3月に就役した最新型イージス艦「まや」だけだ。

11月22日、そのイージス艦まやは、海自・呉基地を出港し瀬戸内海を航行していた。なぜ瀬戸内海にいたのか? カヤックに乗り、海上からまやの姿を撮影していたフォトジャーナリストの柿谷哲也氏が語る。

「まやは呉、神戸に寄港して、三密を避けるために一般公開はせずに、将来、海自隊員になりたい方々の見学が実施されていました」

海自は今、深刻な人手不足で新隊員になる人材確保に躍起だ。そのリクルート活動に、新鋭艦は総動員されるというわけだ。

横須賀基地を出港したイージス艦まやは、そうした任務をこなしながら、乗務員の慣熟と様々なシステムチェックを重ね、SM3ブロック2Aの搭載に向けて着々と準備を進めている。

呉基地に到着したイージス艦まや。右は最新鋭潜水艦そうりゅう型8番艦せきりゅう

海自の新鋭艦であるイージス艦まやだが、海自の最新鋭ステルス艦「FFM2くまの」と比べると旧型艦影だ。その理由を柿谷氏が解説する。

「ステルスイージス艦は米海軍のズムウォルト型がありますが、これは結果的に言うと失敗艦で、三隻で建造は打ち切られ、今もテストと改修を続けています。

まやは、今も作られている米海軍アーレイバーク級を参考にして作られた海自こんごう型、さらにあたごをベースに、金がかかる新設計は避けて建造されました。

海自イージス艦のコンセプトはいわば、『飛来する対艦ミサイルはステルスで逃げずに、レーダー反射が大きくなってもいいから他艦艇(ハイバリューユニット)を守る。そして、敵対艦ミサイルをイージスレーダーで探知して、SM2で撃ち落とす』です。

まやは、イージスレーダーの弱点であった真上と水平線の低めがよく見えるようになりました」

では、まやのスペックをみてみよう。乗員300名、基準排水量8200t、全長170m全幅21m、最大速力30ノット、Mk41VLS(甲板埋め込み垂直発射筒)96セル。ここに、SM2対空ミサイル、SM3対弾道BMDミサイルなどが収納される。主砲127mm砲一門、対空機関砲CIWS二基、三連装短魚雷発射装置二基、SH60K哨戒ヘリ一機搭載。

現在、こういったBMDイージス艦が、北朝鮮から日本に向けて発射される中距離弾道ミサイルを、日本本土に着弾する前に破壊するため配備されている。

「舞鶴(京都府)にBMD用のSM3を搭載したイージス艦あたごと、みょうこうが、交代で日本海パトロールに出ています。そこに、横須賀米海軍第七艦隊からイージス艦も来ています。

海自のSM3搭載艦は、こんごう型四隻とあたごの計五隻です。他の三隻は北の兆候を見て、日本海に配備されます。イージス艦まやも、SM3ブロック2Aが搭載されればローテーションに入って、日本海に行くはずです」(柿谷氏)

これで北からの弾道ミサイルに対応できるのだろうか。

「現在の海自BMDイージス五隻と、米海軍第七艦隊イージス艦の配備で、北の中距離弾道ミサイルには対応可能です。

しかし、これが対中国となると話は別です。中国の弾道ミサイルは、弾頭が多弾頭化しています。仮にそれが6個だとすると、ひとつは本物で、残り5個は囮弾頭(おとりだんとう)。これをSM3は識別できないので、6発のSM3を撃たなければなりません」(柿谷氏)

イージス艦まやの96セル全てにSM3が搭載されたと仮定しても、中国は16発の多弾頭ミサイルを撃てば、まやの弾庫を空にできる。海自BMDイージス艦隊を総動員しても、対中国MD(Missile Defense=ミサイル防衛)戦では敗戦必至だ。

そもそも海自が保有するSM3ミサイルの総数は定かではない。96セル全弾装備が可能になるのかさえも分からないのが現実だ。

一方でイージス艦まやには、BMDの他にも、2020年代後半に別の任務が控えている。

「空自の戦闘機F35Bを搭載した横須賀配備の空母いずもとイージス艦まやは、他の汎用護衛艦と共に、空母機動部隊を構成します」(柿谷氏)

海自は、2020年代後半から30年代、沿海域戦闘艦であるステルス艦FFM2くまのが、機雷を活かして日本近海を守るディフェンス艦隊に。一方、防衛的攻撃を担当するのが、空自35B搭載の空母いずもと空母かが、そしてイージス艦で作る空母機動部隊。これが、遠海に出向くオフェンス艦隊となる。

対中有事には、ディフェンス艦隊のFFMステルス艦が尖閣、西南諸島間海峡に機雷をばら撒いて機雷原を作る。そしてイージス艦まやと空母いずものオフェンス艦隊が、南西諸島の東側第一列島線から中国艦隊と中国艦載機を出さないように防衛するシナリオが考えられる。

だが、それが完成するのは、早くても2020年代後半だ。

「それまで日本は、米国、オーストラリア、インドの日米豪印戦略対話Quadを通じて、巧くやるしかないです」(柿谷氏)

日本は対中国に対して、脆弱(ぜいじゃく)な時代が続く。