『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、20代キャリア官僚の退職者が急増する霞が関の"ブラック化"について指摘する。

(この記事は、11月30日発売の『週刊プレイボーイ50号』に掲載されたものです)

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11月19日、内閣人事局が昨年度の20代キャリア官僚の自己都合の退職者数が、6年前の4倍超に増加したとの調査結果をまとめたことがわかった。

これに対し、河野太郎・国家公務員制度担当大臣は「霞が関が危機に直面している」と強い危機感を表明した。内閣人事局によれば、退職理由として「自己成長できる魅力的な仕事に就きたい」との回答が半分近くを占め、30歳未満のキャリア職のうち「3年程度のうちに辞めたい」などと答えた官僚は男性で15%、女性で10%もいたという。

国家公務員総合職試験の受験者数も半減している。確かに、行政を支える官僚の人気が下落しているのは大きな問題だろう。

しかし、若くして辞める官僚の数が増えたから「霞が関が危機に瀕(ひん)している」と考えるのは短絡的だ。民間企業では新卒者が3年以内に離職してしまうのは、今やありふれたことである。

「霞が関危機説」は、新卒一括採用、年功序列、終身雇用という昔ながらの国家公務員の人事システムを前提とするが、今や働き方は多様化し、民間では通年採用、中途採用により多様な人材を確保する動きが広がっている。

河野大臣は長時間労働を減らすなど国家公務員の働き方改革によって霞が関をホワイト化し、早期離職を減らすとしている。それは悪いことではないが、一部の受験エリートが若い頃の筆記試験の成績だけでキャリアシステムに乗り、定年まで純粋培養で出世していく霞が関の人事システムそのものを見直すことのほうが重要ではないか。

そのためには、民間企業に転職した官僚が省庁に復職したり、課長以上はすべて公募制にして民間の優秀な人材を中途採用したり、さらには幹部職員に若手を登用することなどで霞が関のマンパワーを充実させなければならない。

もうひとつ、若手官僚が長時間労働を強いられる元凶として、能力が低くまともに仕事をこなせない管理職が多いことを挙げなければならない。例えば、国会質問の想定問答づくりについて考えてみよう。

議員の質問内容を教えてもらう質問取りが夜になり、答弁書作成が徹夜作業になることをどう防ぐか。国会議員の協力も必要だが、それを引き出すためにも、課長が「働く」ことが重要だ。

今は課長補佐クラスなどに任せている質問取りを課長クラスが行なえば、野党議員も管理職を長時間待たせるような行儀の悪いことはできなくなる。

さらに、直接質問を取った課長が答弁のあらすじを示して部下が作業すれば、手戻りもなく答弁作成作業は大幅に効率化する。もちろん、能力がない課長が多く存在する現状ではこれはできないから、年功序列をやめなければならない。

さらに本質的な問題は、政治家とその意向を忖度(そんたく)する幹部官僚の姿勢だ。国会答弁を書くときに最大のネックになるのが、政治家に都合の悪いことは書けないということだ。

徹夜作業の最大の原因は、役所が過ちを認めず責任逃れをするために無理筋の答弁作成をしていることにある。桜を見る会の参加者名簿がないとか、Go Toは間違いではなかったとか、そんな答弁を書かされれば、肉体的疲労に加え、精神的な疲弊感が募るのは当然だ。それが官僚のやりがいを奪い、若手の離職を増やす。

働き方改革だけでは霞が関の真のホワイト化も優秀な人材の確保も実現できないのだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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