ノースロップ・グラマン社の「NGAD」(次世代航空優勢戦闘機)のイメージ。横に向けて対空レーザーを発射しているノースロップ・グラマン社の「NGAD」(次世代航空優勢戦闘機)のイメージ。横に向けて対空レーザーを発射している

実機の初飛行は10年後になると予想されていた米軍の「第6世代戦闘機」が、なんともう初飛行したとのニュースが!

開発遅れが日常茶飯事の世界で、ここまで"巻く"ことができた理由はなんなのか? そして、そいつはどんだけ強いのか? 緊急&徹底検証だ!

* * *

■「世代」が違えば勝負にならない

「F-22ラプターの後継となる『第6世代』のステルス戦闘機はすでに飛行している」

この"爆弾発言"の主は、米空軍のウイリアム・ローパー調達開発担当次官補だ(9月15日)。

F-22は2005年に初めて実戦配備され、今も世界最強と評される米空軍の「第5世代」のステルス戦闘機。現在、ほかに運用されている第5世代機は、アメリカや日本などが導入するF-35、ロシアのSu(スホーイ)-57、そして中国のJ-20だけだ。

これに続く第6世代機の開発をアメリカやロシア、中国は進めているが、新型戦闘機の開発には長い時間がかかるというのが常識。アメリカでさえ「初飛行」は2030年頃になると考えられていた。だからこそ、冒頭の発言は大きな波紋を呼んだわけだ。

ただ、その際に実機(技術実証機)は公開されず、開発したメーカーや性能なども一切公表されなかった。その後、しばらく水面下で取材合戦が続いたが、ここにきて複数のメディアが次々と「本当に飛んだようだ」と報道。再び大きな話題となっている。

米軍事専門サイト『ウォリアー・メイヴン』のクリス・オズボーン編集長は、11月9日の記事で、第6世代機の初飛行が予想より10年も早まった理由をこう推測している。

「デジタルエンジニアリングで試作機、設計図面、技術詳細を仮想現実内に再現し、そこで機体のテストや解析を完了させたのだと思われる。それによって実機の完成が早まったのだろう」

従来、戦闘機の開発では各段階で実際に金属を切り出し、試作機を製作してテストを繰り返した。しかし、コンピューターによるエンジニアリングやモデリングの精度が飛躍的に高まったことで、実機でのテストが最小限で済むようになり、開発期間が大幅に短縮したというわけだ。

こちらはロッキード・マーティン社のNGADのイメージ。機体形状は上とよく似ており、やはりF-22を彷彿とさせるこちらはロッキード・マーティン社のNGADのイメージ。機体形状は上とよく似ており、やはりF-22を彷彿とさせる

こうした開発方式をプッシュしてきたのが、前出の米空軍調達部門トップ、ローパー氏だ。航空評論家の石川潤一氏はこう語る。

「ローパー氏がこうした開発方式に関する論文を発表し、それに米空軍がゴーサインを出してから、実機の飛行までわずか1年でした。おそらくこの1年間は単純に製造期間であり、それ以前に基本設計は終わっていたはずです。

ロッキード・マーティンの先進開発計画部門『スカンクワークス』やボーイングの同部門『ファントムワークス』は日々、次世代戦闘機の研究を進めており、今回の機体は合作の可能性もある。だとすれば、かなり前から共同作業を続けていたのだと思います」

ところで、「世代」が違うと実力はどれほど変わるのだろうか?

戦闘機同士の戦いで、撃墜数と被撃墜数の比率を「キルレシオ」という。例えば、20世紀最強といわれた第4世代のF-15の場合、その前の第3世代に対して「100:0」を達成。しかし、その第4世代に対し、第5世代最強のF-22は「144:1」というデータが残っている。

もちろん戦術や状況などにもよるため一概には言えないが、基本的には世代が違う戦闘機同士の空戦は「勝負にならない」。だからこそ、空自も第5世代であるF-35の導入をあれほど急いだのだ。

■米軍の第6世代機は8年ごとに新型が登場?

1954年から59年に米空軍は6機種の戦闘機を次々と就役させた。その現代版が「デジタル・センチュリーシリーズ」構想だ1954年から59年に米空軍は6機種の戦闘機を次々と就役させた。その現代版が「デジタル・センチュリーシリーズ」構想だ

では、具体的に第6世代戦闘機の性能を予測してみよう。

前出の石川氏は、

「個人的な考えを言えば、第6世代とは、第4.5~5世代機が部分的に取り入れてきたステルスやAI、ネットワーク、仮想現実、MUM-T(有人/無人機チーミング)などの技術をより効率化・複合化した機体だと思います」

として、以下の点を挙げる。

●合作だとすれば、ロッキード・マーティンとボーイングが製造を分担していたF-22をベースにした双発機

最高速度マッハ2以上で、超音速巡航が可能。

●メンテナンスがラクな「形状ステルス」を採用。

●将来的に標準兵装になるであろう指向性ビーム兵器のパワー確保のため、エンジン回転を使った高性能発電機の運用にも備えておく。

また、航空ジャーナリストの嶋田久典氏は次のようにつけ加える。

「最大の脅威である中国の強固な防衛網を打ち破れるだけの高度なステルス性、単独でも敵陣地に忍び込むための長大な航続距離も必要です。

ボーイングなどが発表しているイラストでは操縦席の後方が大きく盛り上がっており、ここに航法や戦闘を支援するAIを搭載することも考えられます。多数のミサイルも胴体内に格納するため、かなり大型の機体となるでしょう」

さらに興味深いのは、前出のローパー氏による「デジタル・センチュリーシリーズ」という戦闘機開発構想だ。

米空軍は1954~59年、5社が開発した戦闘機6機種を次々と就役させ、「センチュリーシリーズ」と名づけた。

その後、戦闘機の高性能化・複雑化に伴い開発は長期化していったが、デジタル技術の革新により、再び開発期間の大幅な短縮が実現。そこで、今後は約8年ごとに"その時点での最高の新型機"を投入し、約16年ごとに退役させる――という構想だ。

「従来の戦闘機は30年の運用を想定していました。その間にかかる維持費や近代化改修費を考えれば、16年スパンでの更新は、開発費や製造費こそかかるものの、総経費が10%ほど低減できるとの試算があります。

最新のスポーツカーを買った後、後発の新型車に対抗して改造し続けるより、数年ごとに乗り換えたほうがコストが安くなるというような考え方です。同時に、次々と違うコンセプトの新型機を投入し、対抗する中国軍の開発リソースを疲弊させる狙いもあるようです」(嶋田氏)

なお、「デジタル・センチュリーシリーズ」構想は、既存の大手航空機メーカーだけでなく、ベンチャー企業にも参入の門戸を開いている。テスラを率いるイーロン・マスクが宇宙部門に参入したように、いよいよ「軍事産業」の分厚い垣根も取り払われていくことになるかもしれない。

(写真/石川潤一 Northrop Grumman Lockheed Martin)