菅、岸田、石破の3氏が出馬した9月の総裁選では国会議員票が26票にとどまり3位に 菅、岸田、石破の3氏が出馬した9月の総裁選では国会議員票が26票にとどまり3位に

9月に行なわれた自民党総裁選での大敗を受け、石破 茂(いしば・しげる)元幹事長は自派閥「水月会」(以下、石破派)の会長を10月22日に辞任した。

多くの世論調査で「次の首相にふさわしい人物」の1位となるなど国民人気の高い石破氏だが、一方で自民党内の権力闘争では苦戦が続いた。4度の総裁選出馬と敗戦を経て、自派閥の会長の座を退いた石破氏は「何に負けた」のだろうか?

石破派の創設に関わり、同派の広報委員長として2018年の総裁選で大きな話題となった「47都道府県動画」などを仕掛けてきた平 将明(たいら・まさあき)衆議院議員に聞いた。

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■石破さんの「正論」は自民党に必要なもの

――世間的には"電撃辞任"でしたが、石破さんから話は事前に聞いていましたか?

 確か前日にマスコミから「石破さんが辞めるという話は本当か?」と問い合わせがありましたが、その時点では何も伝えられていませんでした。本人の口から聞いたのは22日当日の派閥臨時総会の席です。私もびっくりしましたし、ほかのメンバーもまさかという思いだったはずです。

――突然の辞任表明に、派閥内から異論や不満は?

 石破政権を実現したくて集まったメンバーですから、もちろん慰留もありました。でも、私自身は石破さん自身が責任を取りたいというなら、尊重したいと思いました。

――今回の総裁選は、数字を見れば直近3回の出馬で最も厳しい結果になりました。

 痛かったのは、各候補が論戦を交わす前の段階で、派閥間の調整で議員票の7、8割が菅(義偉首相)さん支持で固まったこと。それによって勝ち筋の見えない戦いになってしまいました。

――今回は党員投票が簡略化され、地方で支持の厚い石破さんにとっては不利なルールでの戦いでした。来年9月に再び総裁選があることを考えれば、今回は出馬を見送るべきだったという声もあります。

 もちろん派閥内でもそういう意見はありましたが、私自身は"主戦派"で、石破さんには出馬を勧めました。このコロナ禍で、時代が10年くらい先に進んでしまった。政界も石破さんの世代を飛び越えて、一気に次の時代になるかもしれない。

今回出て存在感を示しておかなければ、次の総裁選に石破さんが出馬できなくなるリスクもあると思ったからです。

総裁選での戦略的な反省点はあります。ただ、石破さんが出たから、菅政権はあれだけの高支持率で発足できたという思いもあります。石破さんが出なければ、派閥間の話し合いだけで無投票で菅さんなり、岸田(文雄前政調会長)さんなりにすんなり決まった可能性もあるでしょう。

そうでなくきちんと選挙をやり、論戦をやって選ばれたからこそ、菅政権は国民に認められた側面があると思います。

――国民人気の高い石破さんですが、なぜ党内ではあれほど疎まれているんでしょう。

 政策を実行する立場にある与党の政治家は、時には苦しい答弁をせざるをえないこともあります。だけど、石破さんはそんなときでも気持ちいいほど堂々と正論を述べますよね。そして、それを党内では「後ろから鉄砲を撃つな」と言われてしまう。

でも、私は石破さんはそれでいいと思うんです。国民にはこういう声もある、だからこそ政権与党は説明責任を果たすべきだと主張しているだけ。石破さんがいなかったら、自民党の政治はもっと内向きになり、緊張感がなくなると思います。

■二階派が体現する政治という「力の世界」

――石破さんは面倒見が悪い、会食にもろくに行かない、といった声も自民党の政治家の間にはあります。

 石破さんと私はちょっと似ているところがあって、基本的に"人見知り"。私は石破さんには「イヤなことはしなくていいと思います」と申し上げました。それは得意な人がやればいい。

じゃあ、石破さんはその間に何をしているかといえば、ひたすら地方を回っているか、本を読んでいます。それも国家国民のために働く国会議員の資質として大事なことでしょう。「飯を食ってくれない」「面倒を見てくれない」なんていう理由で拗(す)ねて距離を置く議員が本当にいるなら、私はそういう議員の資質のほうを疑いますね(笑)。

――平さんはなぜ石破さんを担いできたんですか?

 古川禎久さん(衆院6期)、赤澤亮正さん(同5期)、齋藤 健さん(同4期)、私の4人で、石破さんに派閥をつくろうと言いに行ったのは、2015年9月の総裁選の直前でした。

当時、安倍政権は絶好調でした。私も安倍さんの明るいキャラクターは大好きです。安倍さんが右と言えばみんなが右と言うような雰囲気でした。

これは一致結束という面で素晴らしいが、一方で政権与党としての多様性には欠ける。「権力というのは必ず腐る」ものですし、党内に別のオプションがないと危ないと思いました。そのオプションになりうる存在は石破さんしかいませんでした。

――それまで無派閥だった石破さんが自身の派閥を立ち上げたことで、よりはっきりと、安倍政権への対抗軸という存在になりましたよね。

 他派閥の議員からは、「安倍政権の継続が決まったその日に派閥を立ち上げて"非主流派宣言"なんて、政治センスゼロだ」と笑われましたが、私たち4人は石破さんに「(総裁の任期である)3年間はポスト不要の覚悟です」と伝えてありました。

石破さんもそれを意気に感じてくれた部分はあったと思います。ただその後、二階(俊博)幹事長主導で党則が変更され、総裁任期がさらに3年延長されたことは誤算でした(笑)。

――今回の総裁選でも、二階派が菅支持に動いたことが流れを決めました。

 この間、二階派の急成長はすごかった。所属政党関係なく求めている人に手を差し伸べ、面倒を見るというやり方をすれば、派閥は大きくなります。それに幹事長のパワーを利用すれば最強です。

直近の幹事長はそういうことに抑制的でしたが、二階さんは本当にすごい政治家です。政治とは「力の世界」だということをあらためて認識させられました。自派から総裁を出すことにこだわらず、キャスティングボートを握り、権力をとりにいく。

一方、石破さんのキャラクターも含めて、うちはそういう派閥ではありません。石破さんはあくまでもビジョンと政策を訴え、自身が次の選択肢になるという政治家ですし、石破派も、会長に面倒を見てもらわなくても自分でやっていけるような人ばかり集まっています。しかしながら、二階派のギラギラ感を少し学ぶ必要はあったかもしれません。

――石破さんは次の総裁選、あるいはその先で再起するんでしょうか。

 大石内蔵助(おおいし・くらのすけ)のように、雌伏の後に討ち入りの日は来るかもしれないし、来ないかもしれません。総裁選の後、私は石破さんに「旅にでも出たらどうですか」と言いました。命を削るような総裁選に幾度も挑戦したんです。石破茂も人間です。少しは休息も必要です。

そういえば、2年前の総裁選では「47都道府県動画」をやりました。実は石破さんは今回、「1741自治体(全国の市町村の総数)動画をやりたい」と言いだしたんです(笑)。さすがに時間的に難しかったのですが、その後、いくつかの自治体について語った動画はすでにアップされています。

シナリオなしで、自分の体験と言葉で、各地域のことをあれほど愛情をもって語れる政治家は石破さんしかいないと思います。「石破はどうしているんだ?」、そういう声がまた必ず聞こえてくるときが来るのではないでしょうか?

●平 将明(たいら・まさあき) 
衆議院議員(5期、東京4区選出)。1967年生まれ、東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、会社員生活や家業である東京・大田青果市場の仲卸「山邦」の3代目社長などを経て、2005年に自民党公認で衆院選初出馬・初当選。現在は自民党内閣第二部会長としてIT政策、科学技術・イノベーション、宇宙政策、クールジャパン戦略などを担当。水月会(石破派)では広報委員長を務めてきた