『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、2021年に注目する「河野太郎を総理に導く5人」について語る。
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「菅降ろし」、そしてそれに続く「ポスト菅レース」はあるのか? それが2021年の政治の注目点だろう。
「ポスト菅レース」が始まったとき、誰が次期首相の有力候補となるのか? 私は河野太郎行革担当相が最有力だとみている。
再々登板の声もあった安倍前首相は「桜を見る会」スキャンダルで、レース参戦の夢は幻となった。国民人気の高かった石破茂元幹事長は先の自民党総裁選で惨敗し、5度目の総裁選出馬は難しい。
もうひとりの有力候補である岸田文雄前政調会長も党内では「決断力不足」「ひ弱」という評価で、やはり厳しい状況だ。茂木(もてぎ)敏充外相、加藤勝信官房長官、野田聖子幹事長代行ら、宰相候補と呼ばれる面々も小粒感が否めない。
そうなると、残るのは行革相に就任早々、ハンコ廃止などの行革メニューをぶち上げ、実行力を印象づけた河野大臣しかいない。
ただ、今のところ河野大臣は麻生派の一議員にすぎず、党内基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。そんな河野大臣が次期首相を目指そうとするなら、石破元幹事長を上回るくらいの爆発的な国民人気を得ないといけない。そうなれば、自民党内でも「河野太郎を首相に」という声が強くなり、派閥領袖(りょうしゅう)の談合に打ち勝つことができるのだ。
河野大臣が首相を目指すにあたり、もうひとつ大切なものがある。それは菅首相との違いをアピールするための「対抗軸」である。河野大臣は菅内閣の閣僚であり、政策で手柄を立てても菅首相の功績になる。菅首相と違う対抗軸を打ち出さないと、河野待望論は起きないだろう。
ただ、河野大臣はその必要性をよくわかっていて、着々と布石を打っているように見える。そのひとつが昨年11月に大臣が肝煎(きもい)りで立ち上げた「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(以下、TF)である。
再生可能エネルギーを増やすための規制緩和を進めようというもので、メンバーは原英史・政策工房代表、高橋洋・都留文科大学教授、大林ミカ・自然エネルギー財団事業局長、川本明・慶應義塾大学特任教授の4人。
過去に各省庁の抵抗に屈することなく、天下り禁止法案を実現させた原氏、OECD(経済協力開発機構)事務局で日本政府に発送電分離の勧告を発するように仕掛けた川本氏は、ふたりとも私と同じ元経済産業省の官僚で、規制改革やエネルギー問題のエキスパートだ。
大林氏は自然エネルギーの分野で国際的に知られ、ソフトバンク孫正義会長のブレーンでもある。高橋氏もエネルギー分野の学者としては日本最高レベルと言ってもよい。しかも、この4人は胆力も十分で、役所や政治の圧力に屈することはない。それゆえ私は彼らを「4人の侍」と呼んでいる。
当面、このTFは再エネ分野の規制改革を進めていくが、やがて石炭火力廃止、さらには脱原発につながる電力システム自体の改革にも切り込んでいくだろう。もし、河野大臣がTFの提言を踏まえ、自らの政権構想の目玉として脱原発を打ち出せばどうなるか?
菅首相は原発推進の立場だ。一方、国民の半数以上は脱原発を望んでいる。そこに河野大臣の脱原発提言だ。それは菅首相との明確な対抗軸になる。
また、そのときに同じ神奈川県選出の代議士として小泉進次郎環境相の支持を取りつけ、「KKライン」を結成すれば、河野待望論はさらに熱を帯びるはずだ。実はTFメンバーは小泉環境相にも近い。
環境省の官僚に足を引っ張られていた小泉大臣が4人の侍のサポートを得れば、「脱原発」戦線に参加し、河野氏との「KKライン」結成に踏み出す可能性はある。
もうひとつ、私が注目している河野大臣絡みの人事がある。それは彼が補佐官に抜擢(ばってき)した山田正人氏だ。経産省出身の同氏は資源エネルギー庁勤務の頃、核燃料再処理工場のコストが19兆円にもなるという文書「19兆円の請求書」を作成して同プロジェクトの中止を訴えたことで、閑職に追いやられていた。今は、TFと大臣の間ですべてを調整する役回りだ。
TFの表舞台で活躍する4人が「侍」なら、大臣官房というバックステージで人知れず河野大臣を支える山田秘書官は「忍者」。実はこの5人はすべて河野大臣の一本釣り人事だ。そこには河野氏の並々ならぬ「意志」が見える。
自民党総裁選は今年9月。そのとき彼らの尽力によって、菅退陣、河野首相の誕生という政治ドラマがあるかもしれない。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。古賀茂明の最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。