『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、テレビ出演した菅首相の姿に落胆する。

(この記事は、1月18日発売の『週刊プレイボーイ5号』に掲載されたものです)

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ひどいものだった。緊急事態宣言直後の1月8日、『報道ステーション』(テレビ朝日系)での菅首相のインタビューである。ただし、ひどいというのはネットで炎上した富川悠太アナによる首相忖度(そんたく)の"ヨイショ進行"のことではない。

このインタビューは生放送ではなくスタジオでの収録。番組側から質問事項が伝えられ、首相は秘書官らが書いた想定問答を基に入念に準備して臨んだはずだ。もちろん、まずいところは編集でカットされるから、流れたのは良いところだけだ。

ところが、放送を見ると菅首相の悲惨な姿しか流れなかった。まともな受け答えができず、言い間違え、言いよどみの連続だ。あろうことか、感染対策の柱のひとつ「テレワーク」という単語が出てこない。なんとか首相をもり立てなければと焦った富川アナが「テレワークですよね?」と助け舟を出す始末だ。

富川アナから「年末に(中略)2000人を超える東京の感染者を想像できたか?」と問われ、「いや、想像はしていませんでした」と答える首相を見て、多くの国民は失望を覚えただろう。

最悪の事態を予測して先手先手で対処するのが危機管理の常識。その司令塔である一国のリーダーが「想像すらしていなかった」と悪びれる様子もない。まるでコロナは人ごとと言っているかのような口ぶりである。

政治家にとって言葉は命であり武器だ。特に政策は官僚や専門家でも作れるが、人々を説得して政策への一致した協力を取りつけるのは政治リーダーの最も重要な役割となる。

特に、コロナのような危機対応ではそれが文字どおり生命線になる。現在、政府・与党は「新型インフルエンザ等特措法」の改正に動いている。改正されれば、飲食店に休業命令を出すことができ、それに背いた店に過料を科すことができる。

また、同じく審議されている感染症法改正では入院措置に応じない陽性者に罰金を科すことを検討している。これらはすべて国が個人の私権を制限できるようにする法改正だ。しかし、その私権制限について、国民が積極的に協力しなければ効果は上がらず感染拡大は止められない。 

例えば、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相はコロナでの死者がゼロでもロックダウンに踏み切った。それができたのは官邸に向かう車中からもネット出演してロックダウンの必要性を説くなど、あらゆる手段と言葉で説明し、国民が納得したからだ。

その結果、同国では昨年11月18日から市中感染ゼロが続き、昨年末にはオークランドで数千人の市民によるノーマスクのカウントダウンイベントをやれるまでになった。事前収録のインタビューもまともにこなせない菅首相に、そんな芸当ができるとはとうてい思えない。 

緊急事態を要請する動きは全国に広がっている。都市部の医療は事実上崩壊しており、欧米並みの陽性者や死者が出るリスクも否定できない。これほどの未曽有の危機を克服するには政治リーダーの国民とのコミュニケーション能力が不可欠である。

だが、『報ステ』を見てわかったのは、菅首相にその能力がまったくないということだ。憤りを感じるというよりも、むしろ哀れみさえ覚える痛々しいその姿。日本にとって、彼がリーダーであることこそ"緊急事態"なのではないだろうか。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。古賀茂明の最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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