超低温下での管理が必要なワクチンの運搬にはドライアイスが必須

「1億2000万人分のワクチンを接種するロジ(輸送・保管)は想像を絶する」

1月19日、「ワクチン担当大臣」に就任(兼務)した河野太郎行政改革担当大臣は険しい表情でそう述べた。

現在、米国の製薬大手ファイザーなどが開発した新型コロナのワクチンを厚生労働省が審査中。承認が下りれば年内に7200万人分が日本に供給される見込みだ。

政府の計画では、接種は2月下旬に医療従事者から始まり、65歳以上の高齢者、基礎疾患がある人......と続き、それ以外の国民向けには5月中の開始が想定されている。

ただ、この接種計画には大きな壁が待ち受けている。

「ファイザー製のワクチンはマイナス75℃の超低温下で管理する必要があります。政府は輸入後に低温冷凍庫で保管した後、ドライアイスを詰めた保冷ボックスに入れて各接種会場に輸送することを想定。このドライアイスは厚労省が一括購入し、医療機関や自治体に配る計画です。

経済産業省は、すでにドライアイス業界へ増産要請を出しています。ただ......それでも今後、ドライアイス不足がワクチン接種を滞らせる恐れがあるのです」(経産省関係者)

その理由について、ドライアイス製造会社の社長がこう明かす。

「国内のドライアイス製造は大手4社で90%超を占め、食品や医薬品の低温輸送を担う物流会社に多くが出荷されます。ただ、近年は原料不足で品薄が常態化しているんです。

ドライアイスの原料は石油の精製過程で出る高純度の炭酸ガスです。しかし、ハイブリッドカーや電気自動車の普及とともにガソリン消費が減り、石油元売り各社は製油所の統廃合を進めている。そのため、ドライアイスの原料である炭酸ガスの出荷量も大きく落ち込んでいるわけです」

河野太郎ワクチン担当大臣には得意技の「合理化」でこのピンチを打開してほしい!

そんな状況で、ワクチン向けのドライアイスは無事に供給できるのだろうか。

「国内のドライアイスの生産能力は年間30万t程度ですが、ワクチン向けには追加で数万tが必要との話もあります。これが事実なら、国内製造だけでは賄えません。

近年は韓国からの輸入も増えていますが、ワクチン用ドライアイスの確保が急務なのは韓国も同じで、日本への輸出はかなり絞られるはずです。さらに、政府の計画ではワクチン接種のピークが、ドライアイスの需要が最も高まる夏場と重なる可能性が高い点も懸念材料......。情勢は極めて厳しいといえます」

ならば今から業界を挙げて少しずつ増産し、備蓄できないのか? ドライアイス販売会社の社長がこう話す。

「実は、この業界に在庫を持つ習慣はほとんどありません。ドライアイスはマイナス79℃以下を保たなければどんどん気化して小さくなってしまうので、"今日作ったモノは明日届ける"というのが商習慣になっているんです。

マイナス79℃を保つ冷凍設備も存在しますが、維持費と電気代が膨大になるため導入台数は極めて少ない。つまり、保管場所の問題でドライアイスの備蓄は難しいのです」

増産も備蓄も望み薄。となると、この夏はどうなる?

「ドライアイスは気温が上がるほど需要が増えます。記録的な猛暑となった2018年夏には生産が追いつかず、大口取引先である宅配業者への出荷量を半分程度に制限したメーカーもありました。

今年の夏も猛暑になれば、ワクチン向けの出荷が優先されるはず。宅配向けには18年より厳しい出荷制限がかかり、ヤマトのクール便や生協の宅配などは大打撃を受けるでしょう。それでもドライアイスが足りなければ、ワクチン接種も滞ってしまいます」

河野大臣はこの"ボトルネック"を解消できるのか?