『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、経産省の原発推進狙いについて語る。

(この記事は、1月25日発売の『週刊プレイボーイ6号』に掲載されたものです)

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電気の卸売価格が高騰し、電力自由化で新規参入した新電力の経営が揺らいでいる。新電力の多くは、大手電力などの余剰電力を売買するJEPX(日本卸電力取引所)から電気を調達し、消費者に小売りする。

ところが、大手の調達ミスによるLNG(液化天然ガス)不足で火力発電量が減り、JEPXへの電力供給が激減した結果、市場価格は昨年12月中旬までの1kWh10円前後から、今年に入り200円前後まで大暴騰した。

新電力で消費者に調達額の高騰分が転嫁される契約では、個人向けの電気代がひと月10万円を超えるケースもあるというから驚きだ。一方、自前の電力を小売りする大手電力はJEPXへの依存が低いため、電気のコストは大して上がらない。

電気料金は公共料金で、競争は公正でなければならない。ところが、大手電力は発電と小売りを同じグループ内で保有しているので、電力価格上昇で小売りが多少困っても発電部門はそれ以上に儲かる。発送電分離が名ばかりだから起きる現象だ。

一方、新電力は値上がりの影響をもろに受け、存続の危機に陥っている。本来なら、発送電を完全に分離し、大手電力に発電した電力をすべて卸電力市場に売らせるようにすれば、小売り分野の大手と新電力の競争条件は平等になる。

しかし、経済産業省はそんな改革をする気はない。新電力の電気購入価格の上限規制(1kWh200円)を行なうだけでお茶を濁そうとしている。

電力逼迫(ひっぱく)のニュースは、原発必要論につながる。経産省がJEPXの市場価格の安定や新電力の支援をサボるのは、原発の再稼働や新設の世論づくりに好都合と考えているからだろう。

もうひとつ、経産省の原発推進狙いを疑わせるニュースがある。昨年12月に公表した「グリーン成長戦略」のウソ記述だ。

この文書で経産省は、日本が目指す再生可能エネルギーの導入比率は「50%~60%が目安」としている。だが、この水準の再エネ比率は現時点でも既に実現している国も多く、2050年時点の目標と考えると、低すぎる。この低い目標を正当化しているのが、「世界最大規模の洋上風力を有する英国の意欲的なシナリオでも、約65%」という記述だ。

ところが、この記述はウソである。在日英国大使館が「そんな目標は掲げておらず、英国の政策ではない」とニュースレターを通じて異を唱えたのだ。実際は、イギリスは50年時の再エネ導入目標を定めていない。ちなみに、昨年末に英国政府の有識者会議が「50年までに80%」という提言を出している。

経産省は英国政府の有識者会議の一昨年のレポートを根拠に挙げたが、それは単なる技術レポートにすぎず、そこに「65%」の文字はない。たまたま書かれていた複数の数字を利用して、65%という数字をつくったのだが、レポートをよく読むと、それよりはるかに高くなる可能性があることがわかる。どう見ても「捏造(ねつぞう)」だ。しかも、いまだに経産省は謝罪をしていない。

捏造数字を根拠に、「50年再エネ50%~60%」という低めの目標設定をしたのは、やはり原発推進のためだろう。

グリーン政策はデジタル政策と並ぶ大切な成長戦略だ。そのグリーン政策に作為やフェイクまがいの記述を混在させてしまう経産省にエネルギー政策を任せるわけにはいかない。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。古賀茂明の最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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