『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、森喜朗氏をはじめとする「3老人」に頼らざるをえない菅政権への不安を語る。

(この記事は、2月22日発売の『週刊プレイボーイ10号』に掲載されたものです)

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五輪組織委員会の森喜朗会長が正式に辞任を発表したのは、女性差別発言を謝罪、撤回した2月4日の会見から8日もたった2月12日のことだった。

その間、海外メディアから集中砲火を浴びたり、五輪ボランティアや聖火ランナー辞退が相次いだりと、五輪開催に水を差す動きが広がったにもかかわらず、菅義偉首相が積極的に混乱収拾に動く様子はなかった。

なぜ、菅首相は4日の時点で、森会長に辞任を促し、この騒動を早期に収めることができなかったのか? そんな疑問をある記者にぶつけると、こんな答えが返ってきた。その記者は自民党のある派閥領袖(りょうしゅう)のA氏を長く担当しており、A氏の言葉を借りる形で、菅首相と森会長の関係についてこう説明してくれたのだ。

「菅政権は『3老人』が支えている。二階俊博幹事長、"参院のドン"と呼ばれた青木幹雄元自民参院議員会長、そして森氏の3人です。二階さんが自民党を、青木さんが自民参院を、そして森さんが最大派閥の細田派を抑えてくれているから、菅政権はなんとか成り立っているんだと、Aさんが話していました」

森辞任騒動では菅首相は野党から「指導力不足」と突き上げを食らっている。そうなる前に火消しに動けばよかったのだが、森氏に頭が上がらず辞任勧告という鈴をつけられないまま、ずるずると8日間も傍観してしまったと、この記者は言う。

そんな菅首相を見て、不安に思うことがふたつある。ひとつはGo To事業だ。2月に入り、二階幹事長や赤羽一嘉国交大臣が「地域限定で再開することもありうる」と、Go To トラベルの早期再開を示唆する発言を繰り返している。

Go To トラベルは二階幹事長肝煎(きもい)りの政策だ。そして、二階幹事長は前述の「菅政権を支える3老人」のひとりである。その二階幹事長がGo To トラベル早期再開を主張すれば、菅首相がストップをかけることはできないだろう。

そうなれば、コロナ感染は間違いなくぶり返す。そして変異株ウイルスが急拡散し、欧州が経験しているような非常に困難な状況に陥るシナリオだって十分にありえる。

もうひとつは五輪開催の強行突破だ。本来なら、開催の可否は感染状況を見極めながら、冷静に判断すべきである。だが、森氏は「何があっても五輪をやる」という姿勢を変えていない。政治家引退後も五輪納入業者などから年間6000万円もの献金を集めるなど、五輪ビジネスは森氏にとって一大利権であり、権力の源泉となっている。

今回、森氏は辞任に追い込まれたものの、その政治力が衰えた様子はない。政界も「マスコミや世論にしてやられた」と、彼に同情する声がしきりだ。細田派に対する森氏の影響力は健在と考えるべきだろう。となると、菅首相も森氏が「五輪開催をあきらめた」と口にしないかぎり、五輪開催へとひた走り、こちらもコロナ再拡大につながるリスクが高まる。

菅首相には「無派閥なので派閥の論理にとらわれることなく、政策決定できる」と期待する声もあった。しかし、現実は無派閥ゆえに政権基盤が安定せず、「3老人」に頼らざるをえなくなっている。その結果がGo To強行でコロナ変異株の流行、五輪強行突破でコロナ蔓延(まんえん)ということなら国民にとってこれほど不幸なことはない。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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