『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、菅義偉首相の長男による総務省接待疑惑について語る。

(この記事は、3月1日発売の『週刊プレイボーイ11号』に掲載されたものです)

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菅義偉首相の長男が勤める放送事業会社「東北新社」による総務省接待疑惑。その件数は明るみに出たものだけで、計13人39回に達していた。

接待を受けていたのは事務方ナンバー2の総務審議官をはじめ、衛星放送業務を所管する歴代局長、課長らの幹部が中心で、ひとり当たり最高で7万4000円超の豪華接待まであった。飲食代に加え、お土産やタクシー券が供与された例もある。

総務省は13人中11人が国家公務員法に基づく倫理規程に違反するとして、これらの官僚に減給などの処分を行なった。これで幕引きというもくろみだろうが、それで済ませてよいのか。

「東北新社」は衛星放送事業を運営しており、総務省はその許認可権限を持つ。その両者が豪華接待を通じてズブズブの関係を構築していたとすれば、贈収賄の疑いも浮上する。総務省側が「東北新社」に格別の便宜を与えるなど、本来、公正であるべき放送行政が歪(ゆが)められた疑いは濃厚だ。徹底的な事実解明が必要だろう。

それにしてもこの13人はなぜ、これほどの高額接待を受けてしまったのか? 国家公務員倫理法に基づき2000年に施行された倫理規程では利害関係者による接待は禁止。たとえ割り勘でも会費1万円以上なら監督部署への事前届け出が必要など厳しく規制された。今回のような豪華な接待はいくら誘われても警戒して断るのが普通だ。

接待を受けた理由を考える鍵となるのが菅首相の長男からの誘いだったことだ。菅首相は、総務大臣時代から自分の意に沿わない官僚を左遷するなど、総務省に対する強い影響力を誇示してきた。

しかも、長男はそのときに総務大臣秘書官を務めており、幹部でそのことを知らない人はいない。誘いを断れば菅親子に逆らったとして睨(にら)まれかねない。その一方で、菅親子とのパイプを太くすれば、出世が期待できる。だからこそ、内輪の関係を築く絶好の機会と判断して、官僚が喜んで接待の席に出かけた可能性もある。

官僚の規範意識が緩む兆しは以前からあった。とりわけ"お友達疑惑"が指摘された加計(かけ)学園問題では、安倍前首相と加計孝太郎理事長が興じるゴルフや飲食接待に首相秘書官らも堂々と同席したが、安倍氏は問題なしと言い張った。

そんな光景を目にしたのだから、「忖度(そんたく)」のキーワードが流行した前政権時から、官僚の規律の緩みは進んでいたのだろう。公務員倫理規程が制定された当時、霞が関では「訪問先の企業で出されたお茶を飲んでいいのか?」なんて議論がまじめになされたほどだ。それと比べれば、隔世の感がある。

ここは初心に戻り、霞が関を綱紀粛正(こうきしゅくせい)しなければならない。国家公務員倫理規程が形骸化しているというのなら、もはや利害関係者だけでなく、一切の外部との会食を禁止にすればよい。民間との情報交換ができなくなるというのなら、会議録の提出を条件に、日中に会議室で安価な弁当を割り勘で食べるくらいは認めてもよいだろう。

若手官僚は夜の接待は時代遅れと見ている。官僚の働き方改革にも通じる話だ。今思えば「お茶を飲んでいいのか」は、実は官僚の倫理観に対する重要な問いかけだった。霞が関は、"そもそも論"から自らの倫理観を見直し、令和の新しい公務員の倫理規範を再構築すべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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