東京湾を進む、海自の最新鋭イージス艦はぐろ。まや型2番艦だ 東京湾を進む、海自の最新鋭イージス艦はぐろ。まや型2番艦だ

3月19日、海上自衛隊の最新鋭イージス艦はぐろが就役した。これにより、我が国の安全保障政策の基本的方針である「防衛計画の大綱」で掲げられていた海自のイージス艦8隻体制が、ついに整ったことになる。

はぐろは、昨年3月に就役したイージス艦まや型の2番艦で、こんごう型、あたご型をベースに設計。そして、弾道ミサイルを迎撃する最新の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」を搭載可能で、イージス・アショアの配備を断念した防衛省にとって、対中国・北朝鮮のミサイル防空の担い手として期待されている。

横浜・磯子で引き渡され、横須賀基地に向かって東京湾を進むはぐろを、フォトジャーナリストの柿谷哲也氏がヘリから空撮した。このはぐろは、海自の新造艦では初となる"新塗装"が施されていると、柿谷氏は言う。

「昨年辺りから、整備のためにドッグ入りする護衛艦にロービジビリティ(低視認塗装)への変化が現れ始め、補給艦、練習艦にも波及しています。そして、新造護衛艦でこの塗装がなされたのは、はぐろが初めてです」

低視認塗装とはすなわち、実戦を想定した"戦船(いくさぶね)"仕様だ。

同型の1番艦・まやと比較すると、大きな変化がある。まやの甲板上には、艦番号『79』がはっきりとペイントされているが、はぐろに艦番号『80』はない。その理由とは?

「車のナンバーも読み取れるとされる偵察衛星は、艦番号は余裕で判別できます。今、中国は偵察衛星を多数運用しており、艦艇の特定はもちろん、追跡も可能。甲板の艦番号を消したのは、当然、中国に対する防衛策です」(柿谷氏)

はぐろを真上から捉えた写真。甲板の後部に艦番号『80』は見えないので、衛星写真から艦名は判別できない はぐろを真上から捉えた写真。甲板の後部に艦番号『80』は見えないので、衛星写真から艦名は判別できない はぐろと同型1番艦のまや。甲板の後部に艦番号『79』がはっきりと見えるので、この艦がまやであることが識別できる はぐろと同型1番艦のまや。甲板の後部に艦番号『79』がはっきりと見えるので、この艦がまやであることが識別できる

そして、艦体の横に描かれた艦番号『180』も、まやが白だったのに対し、はぐろはグレイへと、より視認性の低い色へと変更されている。

だが、対潜水艦用の低視認塗装ならば、これも甲板と同様に消すべきではないのか?

「もちろん消したいところですが、平時に民間船舶などとの交通で無線交信が必要となります。その呼び出しに『This is War Ship 180』 と伝えても、艦首に艦番号が無ければ相手側は艦を視認できません。そのために艦番号を白色より目立たないグレイで妥協したということです」(柿谷氏)

はぐろの艦首には『180』の文字がグレイで描かれている。敵潜水艦にとっては識別しにくい はぐろの艦首には『180』の文字がグレイで描かれている。敵潜水艦にとっては識別しにくい 一方、まやの艦体横の『179』は、白い文字で視認性が高く、今後はグレイに変更されるだろう 一方、まやの艦体横の『179』は、白い文字で視認性が高く、今後はグレイに変更されるだろう

低視認塗装を身にまとった最新鋭のイージス艦を導入した海自。そもそも「イージスシステム」とは、ソ連軍が米空母艦隊を撃破するために対艦ミサイルを一度に大量に発射する飽和攻撃を編み出したことに対抗し、米軍がイージス(ギリシャ神話に出てくる、あらゆる邪悪を払う盾)として生み出した、ミサイルをミサイルで撃ち落とす艦隊防空システムのこと。後に弾道ミサイルも迎撃できるように進化した。

ついに念願のイージス艦8隻体制を整えた我が国のミサイル防衛と艦隊防空体制だが、これで万全となったのか?

「いや、そうでもありません。本来ならば2010年前後までに8隻体制を完了すべきでした。しかし、新型ヘリ護衛艦など次々に高額艦艇が必要となり、さらに中国海軍の趨勢(すうせい)から、値段が半分の汎用護衛艦新造を優先してイージス艦が後回しになってしまい、これだけ遅れてしまいました。

そうこうしている間に中国は、イージス艦を真似た高性能防空艦を26隻就役させ、13隻を建造中。これに対抗するには、とても8隻のイージス艦では足りません。

一方でアメリカ海軍は、非イージス艦をどんどんと退役させ、汎用艦を全てイージス化。日本も、イージスのバージョンを落として購入したノルウェイ海軍クラスのイージス艦にすれば、海自の汎用護衛艦の値段でできるのですが......」(柿谷氏)

そして、この最新鋭のイージス艦はぐろは、まだ実戦投入が不可能だという。

「はぐろをよく見てみると、発注時期の関係で、水上レーダーSPQ-9Bがまだ付いていません。これが無いと、体当たり攻撃してくるボートやヘリコプター、ドローンを探知できないので、実戦投入はできないのです」(柿谷氏)

今月18、19日にアラスカで行なわれた米中外交協議は"罵倒合戦"のまま終了した。また、2月1日から中国は海警法を適用し、海警局による武器の使用を認めている。過熱の一途をたどる中国による海上侵略、その最前線である日本近海を守る海自は、中国の巨大艦隊に対し、今のところイージス艦8隻で踏ん張るしかない。

JMU横浜では空母いずもが塗装中。はぐろと同じく、甲板に低視認性塗装が施される予定だ JMU横浜では空母いずもが塗装中。はぐろと同じく、甲板に低視認性塗装が施される予定だ