都構想がダメなら「なんちゃって版」で――。
昨年11月に2度目の住民投票でも否決され、完全に"ボツ"となった大阪維新の会の看板政策・大阪都構想。開票後には松井一郎大阪市長が、
「やることはやった。まったく後悔もない」
と白旗を揚げ、維新の会代表の座を吉村洋文大阪府知事に譲り渡していた。
それなのに、だ。ここにきて、維新が再び悪あがきのような動きに出ている。都構想のチープ版とでもいうべき「広域行政一元化条例」(以下、一元化条例)案を3月24日に大阪府議会、同26日に市議会に提案し、超スピード可決させてしまったのだ。
自民党大阪市議団の川嶋広稔(ひろとし)副幹事長はこう憤る。
「2度の住民投票で示された民意を真っ向から否定するとんでもない行為。それも前回の投票からまだ5ヵ月しかたっていない。ひどい話です」
ただ、実際のところその中身はグタグタ。最終的に提出された条例案では、維新が当初導入を目指していた「総合区」(大阪市内の24行政区を8つの総合区に改編)のプランは消え、「二重行政解消のため」と強調していた市から府への重要分野すべての権限委託も、都市計画と成長戦略のみに大幅縮小されているのだ。
その理由を、維新の内情に詳しい議会関係者がささやく。
「勢いでのし上がってきた維新にとって、都構想という看板政策を失った痛手は大きく、このままではジリ貧になるとの危機感が強かった。住民投票で負けても、『元気に改革やってまっせ!』と、常に"花火"を上げてアピールし続ける必要があるんです。
今回の条例はまさにその"花火"なわけですが、維新は市議会で過半数を割っており、可決には公明党の賛成が必要でした。そのため公明の修正要求を次々と受け入れた結果、すっかり骨抜きの『なんちゃって都構想条例』になってしまったわけです」
しかし、なぜ維新はそこまで条例の成立を急いだのか?
「遅くとも今秋、早ければ5、6月にも行なわれる衆議院選挙までに条例を成立させ、有権者に猛アピールする狙いがあったんです。それに衆院選の前なら、『公明現職の選挙区に維新候補を立てない代わりに、条例可決に賛成してくれ』と交渉できますから。
維新との交渉に当たった公明幹部は、『松井さんは条例の中身にはこだわりがなかった。とにかく成立を最優先にしている印象だった』と言っていました。解散・総選挙前というタイムリミットを意識していたのは確実でしょう」
ただ、その「こだわりのない中身」ゆえの懸念もあるという。前出の自民市議団・川嶋副幹事長はこう言う。
「この条例で、市は成長戦略と都市計画に関わる事務を府に委託することになりました。これによって、大阪市内で都市開発をしたい業者は、市だけでなく府とも協議しないといけない案件が出てくる。
しかも、これまで大阪の大規模都市計画のほとんどを担当してきた市と違って、府には専門家もノウハウもないんです。つまり、『一元化条例で二重行政をなくす』と言いながら、実際は逆にムダな二重行政を生み出しかねない構造になっているんです」
地方分権一括法で、政令指定都市には都道府県と同等の権限が与えられている。より身近な自治体に決定権を移すことで、きめ細かい住民サービスや自治が実現できると期待されてのことだ。
「今回の条例内容はその"逆コース"。地方自治をひと昔前の姿に戻そうとしているのは全国でも大阪だけです」(川嶋副幹事長)
2度の投票で民意を示したのに、住民はいい迷惑だ......。