次代の日本の空を守るステルス戦闘機F35B。その存在自体が、仮想敵国に対して大きな抑止力となる(写真は、米軍のF35B)

今月6日、岸信夫防衛大臣は、2023年度までに18機、最終的は42機が航空自衛隊に導入予定の最新鋭ステルス戦闘機F35Bの配備先として、「宮崎県の新田原(にゅうたばる)基地も有力な候補地であることは間違いない」と記者団に説明した。

F35Bは、2018年、米軍によるタリバン空爆で初めて実戦投入されたロッキード・マーティン社製のステルス戦闘機。昨年から航空自衛隊三沢基地に配備されているF35Aとの違いは、F35Aが通常離着陸タイプなのに対し、F35Bは短距離滑走の離陸、および垂直離着陸が可能なSTOVL(ストーブル)機であること。これは、F35Bが米海兵隊ハリアーⅡSTOVL機の後継機として開発されたからだ。

空自では2024年の運用開始を目指しており、将来的に空母化する海上自衛隊いずも型護衛艦との連携が期待されている。

では、その最新鋭のSTOVL機を新田原基地に配備する狙いは何か? 現在、F35Aを運用する三沢基地所属の第302飛行隊がF4を飛ばしていた時の飛行隊長・杉山政樹元空将補が、こう解説する。

「F35はF16の後継機で、対地攻撃用の航空機として作られた飛行機です。今回、新田原基地に配備することを公表した最大の狙いは、中国へのけん制と言えるでしょう。

東シナ海で勢力を強める中国によって尖閣、先島諸島が占領された場合、日米共同で奪還作戦を行ないます。その際、F35Bは米海軍のワスプ級強襲揚陸艦に20機搭載。そして今後は海自の護衛艦かが、いずもにもそれぞれ10機ずつ、計20機搭載が加わります。

洋上から出撃できるSTOVL機F35Bの存在は、中国にとって大きな脅威です。今回の配備で、日本が本気になって尖閣、先島諸島を守りにきたということが伝わったので、中国に対し大きな抑止力になります」

大阪湾を航行する、いずも型護衛艦かが。F35Bを搭載できるよう、甲板表面と艦首の形状を変更する改修を行うことになっている

F35Bやオスプレイが並ぶ、標準的な上陸戦仕様のワスプ級強襲揚陸艦。F35Bだけを20機搭載する小型空母仕様として使うことも可能

さらに、東シナ海に近い九州、中国地方のなかから、新田原基地が選ばれた立地的理由についても杉山氏が続ける。

「新田原基地を選んだ最大の理由は、その立地にあると思います。滑走路の全長は2700mあり、超大型輸送機C5が運用可能。またここは標高が79mあり、台風、津波などに対して強い。

福岡県にある築城基地は、滑走路の全長は2400mありますが、海抜は17mしかない。また、山口県にある岩国基地は、海自基地である上に、空母にF35Bが離発着することを考えると、瀬戸内海は狭いのではないでしょうか。

その点、新田原基地は太平洋に面していて、呉のかが、横須賀のいずも、どちらの護衛艦にも容易にF35Bが載ることができます。

さらに、ナイトランディング(夜間着陸)の訓練をしなければならない時、それが将来できる馬毛島(鹿児島県大隅諸島)に近い点が選定理由と推定します」

太平洋に面しているが、標高が高く地盤がしっかりしている新田原基地

2018年に沖縄沖でワスプ級強襲揚陸艦におけるF35Bの運用を取材したフォトジャーナリストの柿谷哲也氏が、F35Bの性能を解説する。

「まず、その短距離滑走性能ですが、ワスプ級強襲揚陸艦の艦首から106mの位置から発艦しました。これは、おおすみ型輸送艦からでも発艦できる距離です。

またF35Bは自動制御可能で、同じ垂直離着陸機であるハリアーで必要だったヘリコプター操縦訓練が要らなくなりました。これでパイロットはFA18から容易に機種変更できます。

機能的に重要なのは、機首に備わるEOTSセンサー。これで地上の敵、海上の敵艦艇の状況を撮影して、地上に展開する海兵隊員の簡易デバイスにリアルタイムで提供することが可能です。

偵察分遣隊の将校は、『上空のF35Bからリアルタイムで送られてくる敵情報は、我々にとって生命線だ』と言っていました。この情報が手に入る前線の兵士は強いです」

ワスプ級強襲揚陸艦の艦上、艦首から106mの位置から発艦するF35B。海自の護衛艦いずも、かがなら、甲板の半分の距離ということになる

柿谷氏は、かつて環太平洋合同演習リムパックで、海自護衛艦いせを視察する中国軍関係者から「これにF35Bを載せるのか?」と、何度もしつこく聞かれたと言う。

「中国空母に搭載のJ15戦闘機は非ステルスで、F35Bとの空戦は見えない相手と戦うことになり、厄介な存在であると認識していたはずです。空母かがに搭載された空自F35Bは、中国空母の艦隊行動をある程度、抑止できます」(柿谷氏)

さらにF35Bを空母に搭載するだけでなく、別の使い方も空自は考えていると、杉山元空将補は推測する。

米ワスプ級強襲揚陸艦の艦上で、ジェットエンジンを下向きに噴射して垂直に着艦するF35B。甲板は高熱に耐える構造になっている。つまり。わずか数十m四方の鉄板があれば、どこでも離着陸可能な神出鬼没のステルス戦闘機ということだ

「沖縄伊江島の米軍訓練施設の空撮写真を見ると、空母と同じ大きさの滑走路の近くに4ヶ所、数十m四方の垂直離着陸用のパレット(コンクリートの上に置いた鉄板)が見えます。これはF35Bの離着陸用でしょう。

これと同じパレットを南西諸島、先島諸島の民間空港の滑走路の近くに作ります。そしてF35Bを各島に散らばらせて、最後の手段としてそれぞれが独断で戦う。これは中国に対して極めて有効な戦術となります。

たとえ中国が先制攻撃で膨大な数の地対地ミサイルを空自の各飛行場に撃ち込んだとしても、滑走路の横の数十m四方の複数あるパレットまで破壊するのは、まず出来ないからね」

配備するだけで中国への抑止力となり、奇襲攻撃を受けたとしても最後の切り札になる――それがF35Bの役割だ。