『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、立憲民主党・枝野幸男代表の"暴走"を批判する。

(この記事は、4月12日発売の『週刊プレイボーイ17号』に掲載されたものです)

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立憲民主党の枝野幸男代表はどうしてしまったのか。

4月2日、記者会見で菅内閣のコロナ対応を批判し、「すぐにでも退陣すべき。ただし、コロナで衆院選を実施できる状況にない。立憲を少数与党とする"枝野内閣"を暫定的に組閣し、次の衆院選まで危機管理にあたることが望ましい」とぶち上げたのだ。

3月上旬時点で立憲の支持率はわずか4.5%(NHK調べ)。政治スキャンダルなどで自民党が失点を重ねても、立憲に政権を任せてみようという声は聞こえてこない。

枝野代表は議員内閣制の国では危機の際に政府が機能しない場合、少数政党が選挙管理内閣(次の選挙までの暫定政権)を担うケースがあると力説しているようだが、こんな支持状況で、その主張に国民が共感するとはとても思えない。

しかも、呆(あき)れたことにこのアイデアは枝野代表個人の持論にすぎず、党内で議論を重ねて合意された方針ではない。枝野発言の直後、何人かの立憲議員に電話をして確かめたところ、「寝耳に水」「初めて聞いた話。目が点になってしまった」と口々に驚いていた。

枝野代表は翌3日にも原発政策について、「政権を獲(と)ったら、『原発ゼロ法案』みたいなものはつくらない」と発言し、党内に波紋を広げた。原発ゼロ法案は2017年の衆院選で立憲が打ち出した目玉公約だ。それを軌道修正するには党内合意が不可欠だが、立憲関係者に聞くと、この発言も党内で広く議論されて合意を得たものではないという。

そもそも、政党政治の下では各議員が地域や各界から意見やニーズを吸い上げ、それを党に持ち帰って論議し、合意されたものが最終的に政策として打ち出される。しかし、枝野代表はまったく党内論議を経ず、持論をあたかも党の決定方針かのように説明している。これでは公党ではなく枝野氏の私党である。およそ政党としての体を成していないと言うべきだろう。

ただ、そんな枝野代表への批判の声は党内から表立っては聞こえてこない。立憲の複数のベテラン議員の解説によれば、中選挙区制と違い、小選挙区制では候補の公認や選挙資金の手当てなどは党執行部が独占的に担うため、衆院選を控え、立憲の議員は枝野執行部ににらまれたくないと批判を控えているそうだ。

立憲内では安住淳国会対策委員長への不満も根強い。与党が提出した法案への賛否を森山裕(ひろし)自民党国対委員長と協議しただけで党内議論を経ることなく、独断的に決めてしまう手法に批判が集まっている。

近年、首相の鶴のひと声で目玉政策が決まるなど、安倍・自民では官邸主導の強権政治が目立っていたが、野党第一党の立憲でも独善的運営が幅を利かせているとしたら、政治の先行きはいっそう危ういと言わざるをえない。政党政治そのものがさらに劣化し、永田町では今以上に強権と忖度(そんたく)が蔓延(まんえん)してしまうだろう。

そうなれば民主主義の危機だ。昨年9月の立憲合流新党の党首選で、対立候補の泉健太衆院議員は枝野代表の党運営手法を「風通しが本当に悪い」と批判していた。しかし、直近の枝野代表の言動を見る限り、その批判も彼にとっては馬耳東風(ばじとうふう)だったとしか思えない。

民意を集約できない政党は伸びない。ましてや、政権獲得など夢のまた夢だろう。枝野代表と安住国体委員長は党内の声にもっと耳を傾けるべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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