米陸軍と米マイクロソフト社が、戦闘部隊の個人用ARゴーグル型端末の供給契約を締結した。その数、向こう10年で12万台以上!
元米陸軍大尉の飯柴智亮(いいしば・ともあき)氏が解説する。
「この端末は、基本的に最前線では小隊長、小隊軍曹、班長までに支給され、部隊戦闘指揮システム『FBCB2』の簡潔版情報が表示されます。具体的には、世界中どこにいてもMGRS(軍用の地点指示方式)で自分の正確な位置が1m単位で示され、さらに味方と、確認されている敵部隊の位置も表示。近くにいる無人近距離偵察機からのライブ映像も受信可能です」
戦場で常時、敵味方の情報が表示される――つまり、装着した者の視界はFPS(一人称視点のガンシューティングゲーム)のゲーム画面のような状態になるということ。
「各隊の位置や状態を、常に司令部が正確に把握できるので、空爆や砲撃などの近接火力支援を誤爆の心配なく実行できます。また、現場で敵から攻撃を受けた場合も、端末からの通知で即時、援軍や負傷兵の後送の指示が出ます。特に市街戦ではその威力が強く発揮されるでしょう」
この端末を使用する部隊の市街戦をシミュレーションしてみよう。上空では各種無人機が戦域に目を光らせ、地上では本隊が装甲車で進撃中。敵は民生用トランシーバーで連絡を取り合う武装ゲリラだ。
「装甲車は窓がないので個々の隊員には外の様子がわからず、降車時が一番危険ですが、ゴーグル端末があれば外の戦況が見えるので安心です」
本隊が無事に降車すると、300mほど離れた地域が大規模な砲撃にさらされた。小隊長は無人機からの映像で敵の砲兵陣地の位置を正確に把握。この情報は30㎞以上離れた味方砲兵隊に共有され、敵砲兵陣地は遠距離からの精密誘導弾で破壊された。
部隊は市街地に入り、敵ゲリラの掃討を開始。しかし、100mほど進撃すると突如、対戦車ロケット砲や重機関銃の一斉攻撃を受けた。上空の無人機からは見えないビルの中に敵が潜んでいたのだ。
司令部管理画面に表示される『Under Attack』の文字。すぐに『援軍の必要は?』と通知が来たが、部隊からの返答は『必要なし』。建物内の戦闘でも、ゴーグルは大いに威力を発揮するからだ。
「ゴーグル端末には、自身の小銃に取りつけたカメラの映像も表示することができます。つまり、物陰から小銃だけを出して、自分の体は露出させないまま敵に照準を合わせ、撃つこともできるわけです」
班長は建物内に突入すると、小銃を曲がり角の壁から突き出し、端末画面を小銃のカメラ映像に切り替えた。そして敵射手にレーザーの光点が重なった瞬間、引き金を引く。敵射手は即死し、武器とトランシーバーが床に転がる。
「ローテクな連絡手段しか持たない敵との戦闘では、米軍側は犠牲者がほとんど出ないという結果になるはずです」
強すぎる......!
しかし、それならなぜ全兵士にゴーグルを支給しないのか? もちろんコストの問題もあるだろうが、飯柴氏は上官の視点からこう指摘する。
「自分は最前線の兵士に情報を与えすぎるべきではないという考えです。例えば自軍が劣勢に立ったとき、それを末端の兵士が知れば脱走者が出るなどして、自軍が崩壊してしまう恐れもありますから」
出世がサバイバルの近道?