7月23日の東京五輪の開会式まで、あと3ヵ月を切った。しかし、東京では新型コロナの変異株が猛威を振るい、ワクチン接種は遅々として進まず、政府は東京、大阪、兵庫に3度目の緊急事態宣言を発出するなど先行きは明るくない。
本当にこのまま予定どおり開催できるのか? 日本オリンピック委員会(JOC)の関係者はこう断言する。
「ハッキリしているのは、再延期はないということ。来年は北京冬季五輪(中国)とサッカーW杯とぶつかりますし、再来年になると次の2024年パリ大会(フランス)まで残り1年になり、『4年に1回の祭典』という大会ブランドに大きな傷がつきます。IOC(国際オリンピック委員会)がその選択肢を取るとはとうてい思えません」
では、中止の可能性は? 『ブラックボランティア』(角川新書)などの著書で東京五輪の運営を批判し続けてきた作家の本間 龍氏はこう語る。
「IOCも、日本政府も、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(組織委)も、五輪中止は考えていません。まず、IOCは東京で中止の前例をつくれば、その半年後に控える北京冬季五輪の中止も現実味を帯びるので、それだけは避けねばと考えているはずです。
一方、日本側から中止を要請するのも難しい。IOCと東京都の開催都市契約の文書を見ると、『戦争状態、内乱、ボイコット(中略)、参加者の安全が脅かされる場合』に中止できるとしている。コロナの感染症拡大は、まさに『参加者の安全が脅かされる』事態に当たりますが、日本は中止の申し入れができるだけで、最終決定権はあくまでIOCにあります」
仮に、日本から五輪中止をIOCに申し入れたら?
「日本が中止と言い出せば、多額の違約金を支払う必要があるといった話が流布していますが、開催都市契約を読む限り、そうした条項はありません。ただ、契約書には日本側は補償や損害賠償をIOCに請求する権利を放棄することに加え、第三者からの賠償請求や訴訟に応じる義務が生じる、とある。
つまり、スポンサーなどから損害賠償を請求された場合、IOCは一切の責任を逃れ、日本側が賠償金を負担しなくてはなりません。完全にIOC優位の契約です」(前出・内閣府職員)
『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』(文春新書)の著者でジャーナリストの後藤逸郎氏はこう見る。
「IOCは、NGO(非政府組織)であり、NPO(非営利組織)でもある組織ですが、世界最大のスポーツ興行主でもある。この20年間で収入源の放映権料とスポンサー料を3倍超につり上げ、高額な放送権料を支払う米国の放送会社NBCに配慮し、米国で人気の高い競技を同国のプライムタイム(午後8時~11時)に生中継できるよう、開催国の意向を押しのけて競技の開催時間を変更するなど、傲慢(ごうまん)な五輪運営を続けている。
現在も多くの国々で新たなコロナ患者が増え続け、五輪予選がまだ開かれていない競技が山ほどある状況ですから、本来なら五輪の開催は中止すべきです。しかし、IOCは今も五輪を強行開催する姿勢を崩していません。多少の犠牲が出ても、とにかく開催にこぎ着ければ、世界中の放送局から多額の放映権料が入ってくるからそれでよし、ということなのでしょう。
IOCが中止を決断するとしたら、世界保健機関(WHO)が中止の勧告を出した場合で、IOCも、『WHOの判断に従う』と表向きは国際基準に従う姿勢を見せています。しかし、WHOはなぜかIOCには遠慮がち。実際、WHOはコロナ禍で大規模イベントをやるかどうかは『当事者が判断すべき』と言い続けています。IOCもWHOが中止勧告を出さないことを見越して発言している。
その上で、五輪後に日本で感染者が急増する事態となっても、恐らく『エビデンスがない』などと五輪との関連性を否定してくるはずです」
IOCに物言えぬ日本。しかしこのまま強行開催されるとしても、海外の代表選手団を受け入れる自治体の選定問題や、出場選手のPCR検査をどう実施するかなど課題は山積みだ。
今、この国に漂う「後戻りできない」といった、戦前の「竹やり精神」のような悲壮感。4月26日発売『週刊プレイボーイ19・20合併号』の特集『傲慢IOCと物言えぬ日本。東京五輪は開催できるのか?「竹やり東京五輪」の出口戦略』では、将来、「あの五輪はよい大会だったね」と振り返ることができるよう、東京五輪が後世に何を残せるか、そのためにやるべきことは何か、JOCの山口香理事らが語っている。