『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、アフガニスタン難民受け入れに対して日本だけが極端に対応が遅く、受け入れ人数も少ない理由について解説する。

(この記事は、9月3日発売の『週刊プレイボーイ38号』に掲載されたものです)

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米軍のアフガニスタン撤退に伴い、先進各国は自国への協力者を中心に大量の難民を受け入れ始めた。すでに数千人単位で市民を退避させ、彼らを自国に受け入れ始めた米国は別格としても、英国も8000人、イタリアが5000人、お隣韓国でさえ400人近くを退避させている。

もちろんこれらの退避した人々は、各国が難民として正式に受け入れることになる。アフガン難民の数は数百万人規模ともいわれ、難民受け入れの数は欧米中心に、各国、数千から数万単位に上るだろう。

一方、わが国はというと、各国が首都カブール陥落の8月15日前後には救援機を飛ばしたのに対して、派遣を「決定」したのが23日と1週間以上遅く、結局、空港の治安悪化のため、日本人以外は米国に要請された14名を退避させただけに終わっている(8月30日現在)。しかも、もともと現地スタッフやその家族など最大でも500名程度の受け入れしか考えていなかったそうだ。

諸外国に比べて日本だけが極端に対応が遅れ、しかも受け入れ人数も少ないのはなぜか。そこにはふたつの理由がある。

第一に国際社会に対する責任感の欠如だ。難民受け入れは国際法上の義務である。2020年末時点で、紛争や迫害で居住国を追われた人々は8240万人に上る。ところが、日本では、20年実績で難民認定者数はわずか47人(20年実績)と極めて例外的なケースに限られている。

その原因は、歴代自民党政権が国際社会の一員としての立場より、長老たちが持つ純血主義という古い価値観を優先し、よそ者を安易に入れると「ムラ」の秩序が乱れると考えているためだ。

ふたつ目の理由は、難民に対する「無知」である。この点は日本ではほとんど意識されていないようなので、今回は特に強調しておきたい。

難民というと貧しくて教育も受けていない人々というイメージを持つ日本人は多いようだ。そういう人を受け入れると再教育や福祉の提供など、何かと受け入れ国に負担が生じる。だから「難民はお荷物」ということになる。

しかし、実際には難民には優秀で活動的な人も多い。特に、内戦などが始まった初期にいち早く自国脱出を決断したような人々は教育水準も高く、ITを活用した情報収集能力もあり、移住先の国でも活躍できる特殊技能や、生活に不自由しない金融資産を所有している可能性が高い。

そういった人材を受け入れることは、受け入れ国の経済に大きなメリットをもたらす。また、高度人材ではなくても、労働力として活躍を期待できる。

例えばドイツは15年に、シリア人を中心に89万人以上の難民を受け入れた。メルケル政権が人道主義の立場を前面に出したのは記憶に新しいが、実はその裏で自動車業界などが強力に受け入れを主張していた。つまり難民を「成長戦略の柱」のひとつにしたのだ。

もちろん急激な受け入れ拡大により問題は起きる。現にドイツはその後受け入れ人数を年20万人ほどに抑制した。日本でも、急激に受け入れを拡大すれば同じことが起きるだろう。

しかし、少子化で労働人口が減る日本にとって、外国からの人材が今後ますます重要な存在になるのは確実だ。アフガン難民問題をきっかけに、古い価値観を捨てて、今の狭すぎる門戸をもっと開くべきではないか。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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