『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、立憲民主党の敗因と党勢回復について解説する。
(この記事は、11月8日発売の『週刊プレイボーイ47号』に掲載されたものです)
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今回の衆院選では、共産党など野党5党の選挙協力が実現し、一時は30~40議席増も予測された立憲民主党だったが、フタを開けてみるとマイナス14議席の計96議席に沈んだ。惨敗といっていいだろう。
敗因については「共産と共闘したことが嫌われた」「枝野代表では党のイメージアップは無理」などの声が多数で、枝野代表が辞任を表明するなど執行部の刷新が進みそうだ。
だが、党の表紙を変えたくらいで、立憲の党勢が回復するとは思えない。政策や戦略の抜本的な練り直しが必要だ。そのひとつが「おんぶに抱っこ」とまで揶揄(やゆ)される立憲の"連合依存"からの脱却だろう。
ヒントになるのは日本維新の会の躍進だ。改革路線を大々的にアピールした維新は、比例票を前回の衆院選(17年)の338万票から805万票へと伸ばし、議席も改選前の11から41へと大幅に増やした。本拠地の大阪では15人の候補全員が小選挙区で当選。しかも比例代表で北海道を除く10ブロックで議席を確保して、全国区の政党への足がかりをつくることに成功した。
今回の衆院選に至るまで、維新が有権者に示し続けたのは、労働組合との対決姿勢だった。維新がイメージする労組とは、「労働者の権利を守る団体」ではなく、官公労(国家公務員、地方公務員など、主に公務員による労働組合の総称)に代表される、「民間企業よりも高い給与をもらう労働貴族の利権を代弁する団体」である。
維新は「行政改革を断行する!」と、労組に戦いを挑み、公営バスの運転手の平均年収を900万円から民間バス会社並みの600万円に下げるなどの改革を進めた。そして、有権者はその奮闘ぶりを支持したのだ。
一方の立憲はどうだろう? 共産との共闘を嫌う最大支援組織・連合の意向をかわしきれず、今回の衆院選では自民を脅かすような本格的な野党共闘体制を築けなかった。この中途半端な姿勢が、有権者が立憲への期待感をいまいち持てなかった要因のひとつだ。比例当選者の大幅な落ち込みが、それを端的に表している。
そもそも連合は、大企業の企業内労組の集合体である。その関心は大企業の利益向上や労働条件改善にあり、派遣や中小企業の労働者の待遇改善や国民全体の利益には関心が薄い。つまり、連合は大企業と癒着した自民と親和性が高いのだ。
実際、連合は大手電力が反対する原発ゼロ政策や、世界に後れを取った日本の自動車産業が反対するEV(電気自動車)推進などのグリーン成長策には冷淡である。そんな連合に言いなりの立憲の政策では、「行政改革」はタブーとなり、脱原発などの政策も中途半端になる。これでは無党派層から見ても維新のほうがはるかに魅力的に映る。
立憲の党勢回復のためには連合との関係見直しが欠かせない。少なくとも連合の意向を気にするあまり、独自の政策を貫けない状況からは、今すぐに脱却しなければならない。連合が改革の足を引っ張るなら、その支援を断ち切るべきだ。
それくらいの強さを見せなければ、もう一度有権者が立憲に目を向けてくれることはない。これまでどおりの連合依存を続ければ、自公政権に対峙(たいじ)する野党勢力を牽引(けんいん)するのは無理。党勢はさらにジリ貧になり、昔の社会党の二の舞いになるだけだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中