『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、政治への信頼度が低いことに原因がある、国会議員の「文書通信交通滞在費」や「マイナンバーカード」問題は、政治がカネに関してクリーンになる覚悟を示すことだと指摘する。

(この記事は、11月29日発売の『週刊プレイボーイ50号』に掲載されたものです)

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改革をやり遂げるためには国民の政治に対する信頼が欠かせない。言い換えれば、今の日本は政治への不信が根強いから改革ができずにいる。

例えば最近話題になった国会議員の「文書通信交通滞在費」(以下、文通費)の問題。たった1日でも議員として在籍すれば、1ヵ月分の100万円が丸々支給される。領収書不要で使途不明がまかり通ることから、国会議員の「第二の給与」などと古くから批判されてきた。

今回、日本維新の会の議員がSNSでこの問題を取り上げ、吉村洋文大阪府知事がこれに同調した。すると雪崩を打ったかのように、これまで頬(ほお)かむりしていた与野党が是正に動きだし、"日割り支給"にすることで合意。早ければ、12月の臨時国会で法改正を行なうという。

ただ、カネの使い道に関して政治家への規制を強めるべきなのは、この一件だけではない。例えば、議員立法の調査研究費として、ひとり当たり月65万円支給される「立法事務費」も領収書が必要なく、実態としてはほぼ政党のつかみ金と化している。

また、総額にして300億円を超える政党助成金を交付する条件として打ち出された企業団体献金の全面禁止も、いつの間にかうやむやになった。

そもそも、文通費も日割り支給にして済む話ではない。民間では経費は実費精算、領収書の添付が当たり前だ。ならば、文通費も民間と同じルールにするべきだ。民間では当然のことをやってこなかったから、政治が国民に信頼されないのだ。

こうした政治への不信は、国民にとって必要な政策の妨げにもなる。その代表例がマイナンバーカードだ。このカードの普及はコロナで生活が困窮した層に素早く現金などを支援する「プッシュ型給付」の仕組みをつくるのに欠かせない。社会保障や税務関連の番号や個人資産をマイナンバーとひもづければ、本当に困っている人をより迅速かつ効果的に支援できる。

しかし今のところ、このカードの普及は遅れに遅れて40%程度の普及率にとどまっている。政府が目標とする「2022年度末までのほぼすべての国民の取得」が実現できるかは怪しいと言わざるをえないだろう。

普及が進まない最大の要因は、マイナンバーカードを通して個人情報や金融資産状況などを国に把握されることへの不安感だ。政府が情報を目的外に使うのではないか、大事な情報が盗み見されたり、漏洩(ろうえい)されたりするのではないかと疑う人は多い。

これも政治への信頼度が低いことに原因がある。信頼があれば、最大2万円のポイント付与などなくても大多数の人がマイナンバーカードの交付を受け、その先にはカード取得の義務づけも視野に入っていたはずだ。

政治への信頼は一朝一夕で醸成できるものではないが、まずは政治家が自らすべての銀行口座、さらには証券、不動産、ゴルフやリゾートの会員権などの資産をマイナンバーにひもづけた上で、政治資金や文通費の支出をキャッシュレスにして透明化し、明細書をネットで公開するところから始めたらどうか。

12月6日召集の臨時国会では、「異次元のバラマキ」経済対策が議論されるだろう。しかし、それよりも優先すべきは、制度改革を通して、あらためて政治がカネに関してクリーンになる覚悟を示すことだ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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