『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、発足されたデジタル庁が成果を上げるには、ITをよく知る民間起用組に主導権を移すしかないと指摘する。
(この記事は、12月6日発売の『週刊プレイボーイ51号』に掲載されたものです)
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9月1日に発足したデジタル庁には行政のデジタル化をはじめ、日本社会のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進役としての期待がかかっている。
だが、これまでの仕事ぶりを見るかぎり、その期待は尻すぼみになりそうだ。スタート早々、実にくだらないトラブルが相次いでいる。
例えば、事務方トップの石倉洋子デジタル監による画像の無断転載事件だ。自身のブログに画像素材サイトの画像を無断転載したことが発覚し、9月3日に謝罪に追い込まれている。
ほかにもデジタル庁はITリテラシー欠如を疑う初歩的なミスを犯している。11月24日、デジタル庁から一斉メールを発信する際、報道機関担当者約400件分のアドレスについて、送信先を隠して送信するBCC欄ではなく、全送信先アドレスを公開するCC欄に入力し、外部に流出させてしまった。
実務を担う現場にも不安がある。民間登用の職員250人のうち、非常勤が98%を占め、多くが出身企業などの仕事との兼職だという。勤務時間が週2~3日や毎日数時間程度の人もいる。民間出身のデジタル庁のプロジェクトマネージャーが、あるネット記事(※)で「(官庁で)外の人間がリーダーシップを取ることに難しい部分はある」と及び腰なコメントを残している。
(※)『パーソルテクノロジースタッフ』10月11日掲載記事【「デジタル庁で働く」or「デジタル庁と働く」には?】
見逃せないのは石倉デジタル監ですら、政府の仕事ぶりを顧客志向が欠けていると指摘し、「ユーザーとは誰かが見えていないのでは?」と、会見で発言したことだ。彼女も一橋大学の教授から民間登用された人物。官僚が「お役所の常識」を振りかざし、民業なら当たり前の改革がスムーズに進んでいないのがよくわかる。
これは役所が民間を起用して失敗するプロジェクトの典型パターンだ。民間起用組は新しい仕事の進め方を提案するが、上から目線の官僚がそれを受け入れることは少なく、自分たちの利権を守る意識も働いて、せっかくの提案にも難癖をつける。その結果、さまざまな改善策は次々と頓挫、遅滞する。私は官僚時代に霞が関の至る所で同様のケースを目にした。
デジタル庁の生みの親、菅義偉前総理が退陣したことも痛い。総理肝煎(きもい)いりのプロジェクトでなくなった今、官僚も霞が関の既存ルールを壊してまでデジタル庁に協力するはずがない。しかも、岸田文雄総理はもちろん、牧島かれんデジタル相も事務方トップの石倉デジタル監もITの専門家ではない。このままではデジタル庁は大きな仕事ができないまま、失速するのは必至だ。
成果を上げるにはITをよく知る民間起用組に主導権を移すしかない。そのためには、デジタル庁の幹部は全員を民間人材とし、デジタル庁の仕事に命がけで取り組んでもらえるための権限と待遇を与える。
一方、官僚組は民間起用組のアイデアを実現するために各省庁と闘うことに専念させる。その数は全職員の10%もいれば十分だ。
トップも日本人でなくてよい。それこそ、台湾のオードリー・タンIT担当相のような優れた外国人材をデジタル相にリクルートするぐらいの大胆さが欲しい。必要なら、法改正も行なうべきだ。
さらには、各省からデジタル関連の権限と予算をすべて移して、独立したデジタル「省」をつくって出直す。そこまでやらないと成功は難しいだろう。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中