経済産業省の元官僚・古賀氏(左)と立憲民主党の新代表・泉氏(右) 経済産業省の元官僚・古賀氏(左)と立憲民主党の新代表・泉氏(右)

昨年の衆議院選挙で議席を減らし、野党第1党としての存在感が揺らいでいる立憲民主党。新代表に就任した泉 健太(いずみ・けんた)衆議院議員は、どんな捲土重来の策を考えているのか? 一番気になる経済政策を軸に古賀茂明(こが・しげあき)氏が根掘り葉掘り聞いた!

(この記事は、1月17日発売の『週刊プレイボーイ5号』に掲載されたものです) 

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■立憲独自の「国家ビジョン」

古賀茂明(以下、古賀 年末年始は多忙だったのでは?

泉 健太(以下、 それがそうでもなかったんです。コロナで行事の中止が相次ぎ、新年の賀詞(がし)交換も例年に比べると少なかった。

古賀 それでは、家族サービスなどして、くつろぐ時間も多少は持てましたね。

 ええ、多少は。ただ、参院選に備えて政策分野ごとの中長期的な構想を策定するよう、党内に指示を出したばかりですし、やはり多忙です。とてもくつろぐ暇はありません。何よりも慣れないのは、党代表になったことでSPの警護がつくようになって、散歩も気軽にできなくなってしまったことです。

また、家事が好きなので議員宿舎でもよく自炊するんですが、食材を買いにスーパーに行く機会もめっきり減ってしまいました。

古賀 どんな料理を作っているんだろ? SNSに投稿して披露してくださいよ。

 アハハ。基本的に議員宿舎でのひとり飯なので、簡単なものばかりですよ。SNSにアップするには貧相すぎます。

古賀 それでは本題に入ります。野党第2党の「日本維新の会」の支持率が急進しています。野党第1党として、維新の猛追を振り切って自民党・公明党の与党政権と対峙(たいじ)するためには、「立憲民主党になら政権を任せてもいい」と有権者に思ってもらうことがさらに重要になっていきます。

 そのとおりですね。行政の監視、政権スキャンダル追及などについては、「立憲はよく仕事している」と有権者も評価してくれているんじゃないかなと思います。ただ、それだけでは国民から愛されないし、政権も奪取できない。だからこそ、自公とも維新とも違う立憲独自の国家ビジョン、政策を打ち出すことが大切です。

古賀 国家ビジョンの中でも特に立憲で印象が薄いのが経済政策です。泉代表がどんな経済政策を打ち出そうとしているのか? 今日はそこを深掘りしたい。

GDP(国内総生産)や実質所得が伸び悩むなど、日本経済の停滞は顕著です。最近は成長を否定するような議論もありますが、世界との競争のなかで日本が生き延びるには、まだまだ成長を諦めるわけにはいかない。では、どうやって日本を成長させますか?

 日本はこの30年間、ほとんど成長していません。成長の仕方を忘れてしまったかのようです。だからこそ、成長戦略は欠かせません。

そこで大切になるのは「分配」です。経済不振の大きな原因になっているのがGDPの6割を占める消費の停滞です。思い切った分配政策で個人の所得を増やし、消費を刺激することが成長につながるはずです。つまり、分配そのものが成長戦略になるんです。先の衆院選公約で困窮者への現金給付など、思い切った分配政策を打ち出したのはそのためです。

古賀 ただ、野党が分配重視の政策を打ち出すと財源無視のバラマキだという批判を招く。それにどう反論しますか?

 この20年間、財務省を中心に財政破綻の危機が叫ばれてきましたが、これだけ国債発行額が増えても長期金利は0%前後に張りついたままで、財政破綻は起きていません。もはや、財務省の財政破綻シナリオは説得力を失っています。

どのレベルまでなら財政出動が可能なのか、財政再建とはどういう状態を指すのか、しっかりと国会で再定義する必要があると感じています。今は大胆な分配政策を打つのが先決で、財政再建を訴える環境にはないというのがわが党の立場です。

古賀 賃上げはどうです? 先進国では最低時給1500円を目指すのが相場ですが、日本は1000円にも達していません。相当本腰を入れないと、とても欧米諸国には追いつけません。

 アベノミクスは金融緩和でマクロ経済をよく見せることには成功しましたが、実体経済を改善することはできなかった。その象徴が実質所得の伸び悩みです。可処分所得を増やして消費を刺激し、経済を成長させるためにも賃上げは待ったなしでしょう。

古賀 ただ、賃上げには中小など、生産性の低い企業の淘汰(とうた)が欠かせません。その痛みを甘受してでも賃上げを断行する覚悟がありますか?

 欧米諸国はこの30年間で30~40%も所得が伸びているのに、日本はわずか4.4%増にすぎません。この異常な状況を改善するには少々の痛みは受容するしかないでしょう。

ただ、その痛みを最小にすることも政治の仕事です。企業が生産性を高めたり、正社員を増やしたりできるような支援策を行なう必要があるでしょうね。それがデフレに苦しむ「安い日本」、そして低賃金からの脱出につながるはずです。

■再び「地方主権」のムーブメントを起こす

古賀 エネルギー政策はどうですか? 日本は3.11以降も原発再稼働にこだわり、再生可能エネルギーの導入が遅れました。あのとき"原発ゼロ"にシフトしていれば、今頃日本は再エネ技術やグリーン成長戦略で世界をリードする存在になっていたはずです。

 私たちの立場はずっと明確です。それは原発ゼロ社会を目指すということ。党の綱領や基本政策にも明記されています。

昨年12月、3年ぶりに福島第一原発を視察したんですが、事故から10年が過ぎても遅々として復興が進まない惨状を見て、原発事故の怖さを再認識させられました。故郷を崩壊させ、国土の一部を長期にわたって死滅させてしまう。そのコストを考えれば、原発ほど高くつく電源はありません。核ゴミ問題も解決のめどが立っていない。

もし、日本がカーボンゼロのミッションを原発に頼らずクリアできれば、それは世界に類例のないチャレンジとなる。世界から称賛されるだけでなく、その技術をもとにグリーン市場で大きな地位を占めることも可能でしょう。

古賀 脱原発と再エネ普及には、もうひとつ大事な効用があります。それは、地方創生です。地方は原発や火力などの大規模発電に莫大(ばくだい)な料金を払っています。つまり、地方の貴重な富がエネルギー費として毎年、地域外に流出しているんです。

でも、地産地消が基本の再エネなら、エネルギー費は地域内にとどまる。そのお金が循環することで、地域経済は活性化しますよ。

 エネルギーの地産地消はぜひ進めたい政策のひとつです。人口減少に悩む地方ですが、豊かな自然と持続可能な暮らしができる環境が存在している。あとはその地域を支えるインフラと収入の発生する場があればいい。地域循環型のエネルギー経済はその絶好の拠点になります。

古賀 それが過疎を防ぎ、地域の再生につながるというわけですね。

 私は、地方を元気にしたい。そのためには地方主権の改革と地方創生を本気で進めないといけません。かつて民主党政権は国と地方を対等な関係に位置づけ、権限と財源を地方に移譲しようとしました。しかし、自民党政権になると国と地方の関係は元の上下関係に戻されました。これを再び地方主権の流れに戻す必要があると思います。

古賀 エネルギーの地産地消を進めるためには原発関連の補助金を廃止し、再エネシフトのための補助金へと切り替えるべきです。立憲としてそうした法案や予算修正案を国会に提出してみてはどうですか? 泉代表が掲げている「提案型野党」としての評価も受けられます。

 そうですね。例えば、洋上風力発電は電源立地交付金の対象外になっています。ある電源には補助金が交付され、ある電源には交付されないという制度はいびつというほかありません。しかも自治体が洋上風力発電を計画しても、国の認定が必要となる。さっさと権限を地方に渡してしまえばよいのに、これでは再エネは普及しません。

その逆で、自治体が独自に再エネプラントの建設に乗り出したときは、国は補助金を出して応援する。そして、その収益は地方の独自財源として認めるくらいの地方創生策を打ち出すべきでしょう。

古賀 だけど、立憲内には電力業界の支援を受け、原発再稼働に賛成の議員もいますよね。本当に原発ゼロに向けて一枚岩になれますか?

 できないと言われたことでもチャレンジしてみると、意外とやれてしまうものなんです。例えば、代表選で私が掲げた「立憲の党役員の半分を女性にする」という公約は「できっこない」と散々批判されましたが、やってみるとあっさりと実現できました。

原発ゼロ社会を目指すという公約も今すぐゼロにするというわけではなく、ステップを踏んでということ。みんなの合意で綱領に盛り込んだ以上、やれると思っています。

■「政策の総合商社」から脱皮を目指して

古賀 泉代表が率いる立憲が掲げた分配重視、消費税減税、地方創生などの政策はほかの政党も主張していることです。

先月の衆議院本会議で泉代表が提唱した「人にやさしい持続可能な資本主義」は岸田首相の「新しい資本主義」というキャッチフレーズと響きが似ているし、「改革」や「政策提案型の党」というフレーズも維新や国民民主党が常用しています。多党化する政界で立憲が埋没しないための差別化戦略を聞きたい。

 古賀さんはどう考えていますか?

古賀 今、政界には「改革派でハト派」のポジションを取る政党がいません。自民はバラマキ重視で軍備増強に前向きな「守旧派でタカ派」、維新は改革も軍備増強も重視の「改革派でタカ派」のポジションを取ることで一定の支持率を得ています。

一方、共産党やれいわ新選組は有権者から見るとバラマキ色が強く「ハト派だけど守旧派」に見える。不思議なことに「改革派でハト派」のポジションはがら空きです。ここを狙えばかなりの支持を得られると思います。

 なるほど。

古賀 例えば今、論議の的になっている台湾有事の際の日本の対応について、立憲が「改革派でハト派」のポジションでしっかりと見解を打ち出すだけでも、自民や維新との差別化はかなり図れるはずです。

 台湾有事の際の軍事シミュレーションばかりが先行していることを憂慮しています。戦争ほど悲惨なものはない。

かつて私は第2次世界大戦の日本人戦没者の遺骨収集でフィリピン、ニューギニア、シベリアなどに行き、そのことを痛感しました。台湾有事に日本も関与すべきと主張する人は戦争がもたらす惨禍への想像力が足りない。米中衝突を回避する外交的努力など、まずは有事にならないための手立てを探るべきでしょう。

ところで、立憲の2021年の政策集はご覧になりましたか?

古賀 ええ。分厚くてびっくりしました。

 164ページもある。多くの政策を網羅しようという意欲はわかりますが、あまりに膨大すぎますよね。自民の政策集はせいぜい二十数ページです。立憲は旧民主党時代に政権を担当していた議員が多いこともあって、いまだに「政策の総合商社」といったスタイルから抜け切れていないんです。

なので、まずは選択と集中。国民が切望する政策ふたつ、3つに絞って参院選までに提示しようと考えています。

古賀 具体的にはどんなものになりますか?

 それは、まだ秘密です。ただ、環境・エネルギー政策、教育・子育て政策、そして経済政策あたりが中心になるのかな? 経済政策では今日議論になった地域主権改革やエネルギーの地産地消に象徴される地域自立型、循環型経済の構築などをぜひ、盛り込みたいですね。

古賀 確かに早く政策を出しすぎても、他党にまねされてしまいますからね。「ケンタノミクス」みたいなネーミングも考えているのでしょうか?

 ケンタノミクスはないかな(笑)。ただ、立憲独自の経済政策だとアピールできるネーミングにしたいとは考えています。期待していてください。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著『官邸の暴走』(角川新書)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

●泉 健太(いずみ・けんた) 
1974年生まれ、北海道出身。立命館大学卒業後、民主党の参議院議員であった福山哲郎氏の秘書を務め、2003年の衆議院議員選挙で初当選(京都3区)。現在8期目。民主党政権時代の09年9月からは内閣府大臣政務官に就任。2016年に民進党、2017年に希望の党、2018年に国民民主党に参加。希望の党と国民民主で国会対策委員長を務める。2020年に国民民主党の一部と立憲民主党が合流。代表選に出馬するも枝野幸男衆議院議員に敗北。2021年11月、枝野氏の退任に伴う代表選で勝利し、立憲民主党の代表に就任する

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