『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、半年後の参議院選挙は日本の浮沈を占うと指摘する。
(この記事は、1月24日発売の『週刊プレイボーイ6号』に掲載されたものです)
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半年後の参院選は日本の浮沈を占う選挙になる。このところの政界の動きをウォッチしていると、そう思えてならない。
今のところ岸田文雄政権の支持率は堅調だ。強権政治が目立った安倍晋三、菅義偉政権とは打って変わり、「聞く力」がモットーの岸田首相は異論にも耳を傾けるポーズが得意で、その寄り添う姿勢、ソフトムードが支持率アップにつながっている。
首相の狙いはこの勢いを維持して参院選に勝利し、その後の"ゴールデンタイム"に突入することだろう。衆院の任期は2025年秋まで。解散しなければ、参院選後3年間は国政選挙がない。頼りない岸田首相にも長期政権の展望が開けてくる。
一方、政権交代には程遠いと思われる野党側だが、岸田首相の戦略に待ったをかける動きが見えてきた。野党間で改革ポジションをめぐる競争が大きなテーマとして浮上してきたのだ。
レースの先頭を走るのは日本維新の会だ。唯一の改革政党とアピールすることで先の衆院選で大躍進し、最近も支持率で立憲民主党を抜いて野党第1党をうかがう勢いを見せている。
それを見て、国民民主党と都民ファーストの会の中道野党も負けじと改革を叫び、参院選を見据えて合流の動きすらチラつかせている。この動きに維新が「数合わせの野合」と猛反発したのは、改革ポジションのライバルになるのを防ぐためだ。
さらにここにきて、立民も改革レースに参戦する気配を見せている。泉健太新代表は、私との対談で文通費の使途公開に前向きな姿勢を示した。
それだけでなく1月12日に西村智奈美幹事長が「党内に検討会を設置して使途の公開を検討する」と明言している。明らかに先行する維新を意識した動きだ。こうして見ると、野党のアピール軸は改革に移っている。
こうなると、岸田政権はうかうかできない。というのも支持率アップの要因となっている首相の「聞く力」やソフトムードは、言葉を変えれば"改革の先送り"にすぎないからだ。
事実、17日に行なわれた首相初の施政方針演説において、「改革」というキーワードは最後に数回出ただけで、何を改革するのか具体性もなかった。初の施政方針演説で国のデジタル化、社会保障、コーポレートガバナンスなど具体的なメニューを挙げながら7回改革を叫んだ菅前首相と比べると、その熱量の低さは際立つ。
マイナンバーカード活用や出入国管理の改革、戸建て住宅の省エネ新基準義務化など、前政権が進めようとした法案も今国会での提出を諦めた。改革への注文に耳を傾けるポーズは示すが、あとは無理をせずスルーするのが岸田首相の流儀なのだろう。
野党が改革レースに火花を散らす状況になれば、こうした首相の後ろ向きの姿勢が際立ち、国民の間に将来への不安が広がる。その結果、内閣支持率が下がれば、岸田政権も改革レースに出走を余儀なくされるだろう。
一方、首相の「聞く力」のアピール効果が持続し、政権支持率が高止まりする場合はどうか? 改革メニューが示されないまま参院選に突入して、自民大勝、岸田政権継続となれば日本は危うい。参院選後の3年間は首相にとってはゴールデンタイムでも、日本にとっては改革が進まず、二流国への沈没が決定的となる「悪夢の3年」になるのは確実だ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中