「ハリー王子・メーガン妃」と「眞子さま・小室さん」を巡る報道や世間の反応について、イギリスと日本の違いを語るマッカリー氏 「ハリー王子・メーガン妃」と「眞子さま・小室さん」を巡る報道や世間の反応について、イギリスと日本の違いを語るマッカリー氏

チャールズ国王の次男、ハリー王子(ヘンリー王子)が、自らの生い立ちと英国王室の内幕を赤裸々に語った自伝『スペア』が1月10日に発売され、大きな話題を集めている。イギリスと日本、共に「立憲君主制」を掲げるふたつの国で、王室や皇室を巡るメディアの報道や、それに対する人々の反応にはどのような違いがあるのか? 

「眞子さま・小室さんご結婚」を巡る日本社会の反応なども報じてきた、英紙「ガーディアン」の東京特派員、ジャスティン・マッカリーさんに聞いた。

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──ハリー王子の自伝『スペア』が、イギリス国内ではかなり物議をかもしているようですね?

マッカリー 多くのイギリス人にとって「王室のゴシップ」は大好物ですし(笑)、『スペア』は発売前から内容の一部がメディアなどで話題になっていましたから、それなりに大きな反応があるだろうとは予想していました。

メディアや国民の反応はさまざまで、王室批判を続けるハリー王子に批判的な声もあれば、彼の立場を擁護する声もありますが、今のところ、チャールズ新国王をはじめ、英国王室側はこの問題について一切、公式な声明を出さず、沈黙を守っています。

昨年9月に96歳で亡くなった女王エリザベス2世は、熱心な王室支持派だけでなく、それ以外の国民からも幅広く尊敬と支持を得ていたと思います。その女王が亡くなり、チャールズが新国王に即位したばかりという時期に、ハリー王子の騒動が続き、それ以外にもアンドリュー王子の児童買春に関する疑惑(「エプスタイン事件」関連)も問題になっている。

かつては、現王妃となったカミラ夫人とのダブル不倫問題や、故・ダイアナ妃との離婚騒動などで、正直あまり評判が良いとは言えなかったチャールズですが、新国王となってからは「思っていたよりも良くやっている」と評価が上向いていただけに、英国王室は一連のハリー王子の問題に頭を悩ませていると思います。

──メーガン妃との結婚に対する王室や英国メディア、国民などの反応が、その後のハリー王子の王室離脱や一連の騒動の要因になっているという点では、日本でさまざまな議論を呼んだ、眞子さまと小室圭さんの結婚の際の反応と共通する部分があるのでしょうか?

マッカリー メーガン妃が、アメリカ人でアフリカ系の母親を持つという人種的な理由によって、一部の英国王室関係者やメディアから不当な扱いを受けたというのは、ある程度事実だと思いますし、それがその後のハリー王子の英国王室離脱や、一連の行動の大きな要因のひとつになっているのは間違いありません。

一方で、ハリー王子自身が幼いときに両親の離婚や母親のダイアナ妃の悲劇的な死に直面した心の傷や、その後も父であるチャールズや、兄のウィリアムとの関係に苦しんできたこと。そして、自分の王室の中での立場は自伝のタイトルでもある「スペア」(予備)にしか過ぎないことへの複雑な思いが、メーガン妃の問題を引き金にして、一気に噴き出してしまったという面もあるように感じます。

自伝の中では、彼が従軍したアフガニスタンで、攻撃ヘリコプターに乗り、自らタリバン兵を殺害した話なども生々しく語っていたことが一部で物議をかもしていますが、ハリー王子がアメリカのテレビ番組や出版物などのメディアで、ある意味、過剰なぐらい自分の人生や家族内の出来事を赤裸々に語っているのも、彼が自分の内側に抱えた心の傷を癒すための一種のセルフ・セラピーで、それをメディアが利用しているとも言えるでしょう。

日本の皇室メンバーである眞子さまと小室さんの結婚に対する反応との比較......という点で言えば、どちらも王室や皇室にとって、ある意味「異例の結婚」であったこと。そして、それがメディアなどで大きく騒がれたという点では共通する部分もあると思います。

ただ、イギリスと日本で大きく違うのは、イギリスのメディアや国民が時には辛辣なまでに王室メンバーを批判したり、スキャンダルを騒ぎ立てたりするのに対して、日本では皇室に関する報道や発言は非常にデリケートなものだという認識がメディアや国民にあり、ある意味「聖域化」されているという点です。

そのため、眞子さまと小室さんの結婚についても、皇室の一員であった眞子さまではなく、小室さん自身や、彼の家族の問題にメディアの報道や批判が集中し、時には小室さんのプライバシーや人権を無視したような扱いがあったように感じました。

もちろん、イギリスでもそういう面はあって、ハリー王子とメーガン妃の場合も、小室さんと同じく「王室の外の人間」であるメーガン妃のほうがターゲットになりやすいというのはあるのですが、そうした傾向は日本のほうがより顕著だと思いますね。

──日本の皇室はメディアから「聖域」として守られている一方で、皇室の人たちに与えられた「自由」も少ないように感じられるのに対して、英国王室のメンバーにはより多くの「自由」が認められている代わりに、時には直接、メディアの批判の対象となったり、好奇の対象として扱われたりすることもある......。どちらがいいんでしょうね?

マッカリー これは難しい問題ですが、立憲君主制というのはその国の歴史的な背景を基礎に持ちながらも、「国民の理解と支持」があって初めて成立するものですから、時代に合わせながら、その条件の中で微妙なバランスを取っていく必要があると思いますし、逆に、それがきちんとできていれば、今後もイギリスの王室制度や日本の皇室制度は続いていけるのではないかと思います。

イギリスの王室制度も、皇太子時代のチャールズのスキャンダルや、それに続くダイアナ妃の悲劇的な死の際には多くの批判や議論を巻き起こし、王室制度そのものの危機だと言われた時期がありましたが、その後は女王・エリザベス2世の下で王室の在り方に関する地道な改革や努力が続けられ、広く国民の支持と理解を得られるようになりました。

私自身は熱心な王室支持者でもなければ、王室に否定的なわけでもなく、いわばその中間くらいの立場ですが、そんな私ですら、昨年、女王が亡くなったときの式典を見て、心が動かされたひとりです。

日本の皇室を取り巻く状況がこの先、どのように変わってゆくのか? それは皇室制度を支える日本人自身が考え、決めていくべきことですが、取り急ぎ、将来も皇室制度が続いていくためには、そろそろ「直系の男子のみ」とされている皇位継承権を、女性に拡大することを真剣に検討するべきかもしれませんね。ひとりのイギリス人として、国民から広く尊敬される立派な「女王」の下での立憲君主制は、なかなか良かったと思いますよ!

●ジャスティン・マッカリー 
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で修士号を取得し、1992年に来日。英紙『ガーディアン』『オブザーバー』の日本・韓国特派員を務めるほか、テレビやラジオ番組でも活躍