『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、岸田首相が掲げる「デジタル田園都市国家構想」について解説する。
(この記事は、1月31日発売の『週刊プレイボーイ7号』に掲載されたものです)
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岸田文雄首相は、デジタル化を進めて地方の格差を解消し地域活性化を図る「デジタル田園都市国家構想」を掲げている。
確かに、成長産業とされるDX(デジタルトランスフォーメーション)、グリーン関連のビジネスニーズは都会よりも地方で高い。実際にさまざまなビジネスが立ち上がろうとしている。
例えば、EVの人口1万人当たり普及台数(2009~19年度)のトップ3は岐阜(34.8台)、愛知(31.3台)、福島(30.7台)で、以下、佐賀、福井、大分、山形、三重、山口、岡山と続く。愛知以外はいずれも人口はさほど多くない。一方、人口の集まる首都圏は神奈川26位、埼玉33位、東京36位、千葉40位と普及率は低い。
人口が減少する自治体では採算の悪化したガソリンスタンド(GS)の廃業が進むが、EVなら住民は遠方のGSに出かけなくても、自宅で充電できる。今後、地方で急速にEVが普及するだろう。
EVは乗用車だけではない。地方では、地域の足としてEVバスの導入はすでにかなり進展している。さらに、京阪バス(京都市)や、ITサービス会社の日本ユニシスと滋賀県大津市が共同で進めるシャトルバスのように、EVバスを自動運転にする実証実験も各地で実施されている。オンデマンド型の自動運転配車サービスの実証試験を進める自治体も多い。自動運転とEVが地域の足を確保するカギとなっているのだ。
再エネビジネスも地方と相性がよい。都市部とは違い、地方には太陽光パネルや風力発電機を設置できる遊休地がたくさんある。しかも地元資本でエネルギーの地産地消を進めれば、電力代や燃料代など、これまで外部に流出していた巨額のエネルギー購入費を外部資本に流出させることなく、地域内で循環させることができる。それを地域の独自財源として活用すれば、地方インフラの整備や住民サービスの向上なども進められる。
世界で注目されているソーラーシェアリングも有望だ。農地に太陽光パネルを設置し、その下で農作物を育てるソーラーシェアリングを導入すれば、農家は農業と売電のダブルで稼げるようになる。
パネルの日陰では農作物が育たないのではという懸念もあったが、その後の研究で一定の間隔を空けてパネルを設置するなどの施策で、十分に農作物が育つことが実証された。
すでに収入を大きく伸ばす農家も増えてきている。ソーラーシェアリングが普及すれば、豊かな農村の復活につながり、さらには食料自給率を高めることも期待できる。
そのほかにも医師不足に直面する過疎地での遠隔医療の導入など、医療DXも地方の大きな関心の的だ。
こうして考えると、都市圏よりも地方こそが、グリーンやDXといった成長産業の宝庫であることに気づくはずだ。
先述したデジタル田園都市国家構想では、総額5.7兆円を投入してガバメントクラウドや5G、データセンターの整備、海底ケーブルの日本周回、デジタル人材の育成、スーパーシティ構想の早期実現を進めるなどの方針は示されたが、いまひとつ具体性に欠ける。
ポストコロナ社会の成長戦略は地方でこそ花開く。岸田首相には、それが地方で暮らす人の生活をどう変えるのか具体的にイメージできるよう国民に語りかけてほしい。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中