『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、原子力発電は環境に優しい持続可能なエネルギーだと認定した問題点を指摘する。
(この記事は、2月14日発売の『週刊プレイボーイ9号』に掲載されたものです)
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2月2日、欧州委員会(欧州委)が原子力発電を環境に優しい持続可能(グリーン)なエネルギーと認める方針を打ち出した。すると、日本国内で原発推進派を中心ににわかに大きくなった声がある。
「CO2を排出しない原発は、有力な脱炭素エネルギーである。脱原発は間違っている」という主張だ。
しかし、この認識は本当に正しいのだろうか。日本の原発推進派はあたかも欧州で原発が再評価されたかのようにアピールするが、現実は原発に対するまなざしは依然として厳しい。
今回の方針は欧州連合(EU)の行政府である欧州委が決定したもので、法的に発効するためにはEU閣僚理事会やEU議会の承認を受けなければならない。
しかし、議会内に一定の勢力を持つ緑の党、さらには加盟国ではドイツ、スペイン、デンマーク、オーストリア、ルクセンブルクなどがこの方針に激しく反発し、オーストリアとルクセンブルクはEU司法裁判所に提訴するとしている。その先行きは不透明で、方針の否決、撤回の可能性も十分にありうるのだ。
EUには、脱炭素に貢献していることなどグリーンな投資対象として欧州委が認定する「EUタクソノミー(分類)」という仕組みがある。今回の欧州委の方針は原発をここに加えようというものだ。
ただ、そこには一定の留保がある。というのも再生可能エネルギーが普及して、「カーボンニュートラル」が実現されるまでには長い年月がかかる。原発はそれまでのエネルギー需要を補うつなぎ役として暫定的にリスト入りを認められたのにすぎないのだ。
もうひとつ欧州特有の事情を説明するなら、今回の方針決定の背景に原発大国のフランス、ポーランドなど燃料価格の高騰に悩む旧東欧圏のプレッシャーがあることを指摘しておきたい。
グリーンに国際投資が集中し、古い産業である原発への投融資は細っている。なんとか投資を呼び込みたいフランス、今後のエネルギーを原発に頼りたい東欧諸国のロビー活動がリスト入りにつながったのだ。そこには、欧州の「原子力ムラ」の利権維持の動きも大きな影響を与えている。
それにもかかわらず、日本では欧州が一枚岩になって原発をグリーンの堂々たる代表選手として認めたとミスリードする報道があふれている。勢いづく原発推進派からは「原発を新増設すべきだ。次世代原発とされる小型モジュール炉などの開発に乗り出せ」などの声も聞こえる。こうした動きは危うい。
あらためて考えてほしいのは、原発にはグリーンか否か以前の問題があることだ。地震大国日本で民間の耐震住宅より地震に弱い原発を動かすリスクの大きさ、核ゴミの処分ができないこと、事故時の避難の難しさ、損害賠償の仕組みの不備......これらの難題の解決策がないまま漫然と原発を稼働させている。
さらに、安全保障の観点から見ても原発は危険だ。国内に散在する原発は、ほとんど無防備だ。ミサイル攻撃で破壊されれば、その放射能被害は計り知れない。
安全保障を重視する政治家たちは、北朝鮮などのミサイル攻撃に対する抑止力として「敵基地攻撃能力」が必要だと主張するが、原発攻撃のリスクについてはスルー。その姿勢に私は強い違和感を持っている。
欧州委の方針を錦の御旗にした原発推進派が発言力を強める。その動きに注意してほしい。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。