『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、政府が導入する方針の洋上風力発電は、日本の成長戦略の柱になる可能性を解説する。
(この記事は、2月21日発売の『週刊プレイボーイ10号』に掲載されたものです)
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洋上風力発電が注目されている。政府は2040年までに最大で原発45基分相当の4500万kWを導入する方針だ。
風力発電はCO2を排出しない、原発のように核ゴミを出さない、太陽光と違い夜間でも発電できるなどのメリットがある。発電単価も急激な技術進歩で世界トップレベルならkWh当たり5円前後、日本国内でも同12~16円前後にまで下がっている。
特に無人の海上に建設される洋上風力は、長さ100m超の長大なブレード(羽)を回す空間の確保が陸地より容易だし、風車による低周波振動の被害を心配する人々の反対も受けにくいといった長所がある。領海の広さが世界6位の海洋大国ニッポンにとって、洋上風力はとても魅力的な電源になるだろう。
また、洋上風力は日本の成長戦略の柱になる可能性がある。どういうことか、説明しよう。
洋上風力には大きくふたつのスタイルがある。ひとつは海底に埋め込んで固定された構造物が風力発電の施設を支える「着床式」。水深50m以下の浅い海に適している。もうひとつが、海底に固定したアンカーでつながれた水上でプカプカ浮かぶ巨大な構造物が風力発電の施設を支える「浮体式」。水深50m以上の深さの場合、このスタイルになる。
国内で強い風が吹く海域は水深50m以上の深海が多く、日本の洋上風力では浮体式が有力だとされる。より広い海域で風力発電の建設が可能になるため、世界でもニーズが高まっている。とはいえ、浮体式は設置方法などの技術が完全に確立したとはいえず、世界の勢力図もまだ定まっていない。
そこで、日本政府は国内企業に浮体式の製造や設置の技術を磨いてもらい、日本の風力発電産業復活につなげることを狙っている。
だが、現実はそう甘くはない。そもそも、風力発電の世界シェアは欧米や中国などの海外勢に握られ、国内に風力発電の製造を手がける企業はほぼゼロになってしまった。昨年末に三菱商事が千葉県など3海域の洋上風力発電事業を落札したが、その発電ユニットを納入するのは米ゼネラル・エレクトリック社だ。
この世界では、中国の躍進が目覚ましい。21年には、中国国内で4757万kWの風力発電容量を生み出し、そのうち1690万kWが洋上風力だ。企業のコスト競争力も強く、欧米勢でも苦戦しつつある。
日本でも富山県沖での洋上風力発電プロジェクトで中国企業の「明陽智能」(世界シェア6位)が発電ユニットを受注するなど、その存在感は高まるばかり。このままでは政府の思惑とは裏腹に、国内の洋上風力発電ビジネスが中国に牛耳られてしまう可能性さえある。
日本政府は19年4月から「再エネ海域利用法」を施行し、洋上風力振興に乗り出したが、この程度では、日本の遅れを取り戻すのは容易ではないだろう。
それでも私が「まだ期待できる」と考えるのは、発電ユニットの重要なパーツや素材を供給する「下請け」メーカーの存在だ。
日本には高機能なブレードや発電機を製造する企業が多くある。主契約者として洋上発電のメイン設備を納入できなくても、その中身はメイド・イン・ジャパンばかり、となれば十分に日本の成長戦略として成り立つ。そのためには、政府がもう一段本腰を入れて規制緩和などの政策的支援を強める必要がある。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。