米軍が開発した対小型ドローン用HPM兵器。高出力マイクロ波を目に見えないビームのように出すイメージだ

読売新聞が2月5日付の夕刊1面で、防衛省が2022年度から「軍用ドローンを無力化できる『高出力マイクロ波(HPM)兵器』」の研究・開発を本格的に開始すると報じた。これを受けて、米軍事サイト『1945』は衝撃的な見出しの解説記事をアップしている。

〈アジアで死の光線レースが始まった――日本がHPM兵器の開発に乗り出す〉

ちなみに「レース」とは、中国のステルス戦闘機J-20がレーザー兵器を搭載することも含めた表現だが、防衛省が開発をスタートさせるこのHPM兵器とはいったい何か? 読売新聞では、

●今後5年かけて試作予定。手始めとして2022年度予算に72億円を計上。

●目標に光速で到達し、命中率も高く、照射方向の変更も容易。

●そのため対ドローン戦の"ゲームチェンジャー"になる可能性を秘めている。

●弾道ミサイルの迎撃にも用途が広がる可能性があり、現行の二段構えのミサイル防衛網(イージス艦から発射されるSM-3と、地上発射型のPAC3)を補完するかも。

......などと解説されていたが、軍事評論家の嶋田久典氏はこう説明する。

「HPMは『ハイ・パワー・マイクロウエーブ』の略で、たとえるなら指向性と出力を高めた電子レンジを空に向けるようなもの。群れをなして攻撃してくる軍用ドローンの『飽和攻撃』に対しては、従来のミサイルや砲弾のような対抗手段だと弾切れを起こしてしまいますが、マイクロ波ならエネルギー源(電源)さえ確保していれば無限に撃てます。

もしドローンが電磁シールド加工されていても、それを上回る電波を浴びせれば、回路を誤作動させたり焼き切ったりして破壊することが可能なわけです」

では、世界各国の開発状況は?

「米軍は19年に、まず高度1000m以下の低空を飛ぶ小型ドローン対策として開発していますが、その用途に限定しても大型のコンテナほどのサイズになってしまうのが現状です。中国やロシアも対ドローン用途で開発を進めており、現代戦においてドローンがいかに脅威と目されているかわかります。

ちなみに、この兵器の要となる電源と大容量キャパシタ(蓄電器)は民生技術からの転用が主なので、現状では各国ともベース技術のレベルは同じでしょう。日本はドローンの導入・運用自体の遅れにより脅威の認識も遅れていましたが、電源とキャパシタに関しては一流の技術があるので、キャッチアップはすぐにできるのではないでしょうか」(嶋田氏)

マイクロ波を使った兵器の問題点は、経路上に存在する水蒸気にエネルギーが吸収されてしまうことだというが、対ドローンのような近接防御用途ならそれもあまり問題にならない。開発が進めば地上配備型だけでなく、車両や艦船、航空機への搭載も視野に入ってきそうだ。

防衛省はこのHPM兵器、そしてレールガン(電磁砲)と、22年度予算に対ドローン・対ミサイル用途の新兵器開発費を次々と計上。永田町では敵基地攻撃能力の議論が注目されているが、それはそれとして「持てる"盾"は持っておこう」ということだ。

(この記事は、2月14日発売の『週刊プレイボーイ9号』に掲載されたものです)