3月5日、ポーランド・ウクライナ国境で、アメリカとウクライナの外相会談が行われ、ウクライナ外相は「戦闘機と防空システムを必要としている」と発言。これを受けて3月6日にアメリカは「ポーランドを通じてウクライナに戦闘機供与を検討している」と発表した。
世界の空軍に詳しいフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は、
「ポーランド空軍のミグ29をウクライナに空輸し、ポーランドには米国製F16ブロック52+型が供与される、これはポーランドにはお得な取引です」と言う。
もしそうなった場合の問題は、どうやってミグ29をウクライナへ空輸するかだ。
その空輸作戦について、柿谷氏はこう立案する。
「ウクライナ空軍のミグ29基地は、ポーランド国境から150-200キロの距離で、その間の飛行時間は20分程度。
私の考えるフェリー(空中輸送)作戦はこうです。NATO・E3早期警戒管制機の管制下地域において、戦闘機型電子戦機よりも大きな発電機・変換機を搭載し、強力な電波妨害が可能なアメリカ空軍「B52H爆撃機」が、まずジャミング開始します。
そうするとロシア空軍のレーダーは役立たずとなり、この隙に、国籍マークを消すなどしたミグ29の15機(一個飛行隊)を、ウクライナ人またはポーランド人パイロットが操縦し、越境。
ミグ29編隊を発見したロシア戦闘機が、その機体を撃っていいかどうかの判断を迷っている間に、一気にウクライナ空軍基地に着陸する作戦です」
はたして、この作戦案は実現可能なのか? 外務省勤務経験のある元航空自衛隊302飛行隊長・杉山政樹元空将補はこう言う。
「ロシア戦闘機はミグ29を発見すれば、迷わず全機撃墜するだろうね。ジャミングする電子戦機を用いての空戦は正統な作戦で、戦爆連合編隊が敵を爆撃で徹底的に壊滅させる時にやるもの。これではジャミング開始と同時に、ロシア側に何か始まると知らせてしまうようなもの。なのでここは堂々と離陸し、こっそりと運ぶのがイイ」
その作戦はこうだ。ワルシャワ近郊の基地を離陸したポーランド空軍15機のミグ29は夜明け前に離陸、ウクライナ方面ではなく、まず南西に飛び去る。その光景は、ポーランドにいるロシアスパイが目撃し、すぐ本国に連絡がいく。
そこで、そのミグ29編隊はポーランド南部で東に旋回、急降下して高度30m前後を、時速300-350ノット(550-650キロ)で、レーダーと無線電波封止で飛ぶ、というものだ。
「ちょうどウクライナとの国境を越えた辺りで、暁で少し明るくなる。あとは目視でナビして、超低空のまま3機ずつの密集編隊で、ウクライナのIvano空軍基地に着陸。1時間弱で行ける距離です。出来る限り抵抗を減らしたいから、武装はヒートミサイルを2発と機関砲だけ。ミグ29の航続距離ならば簡単にできる。操縦するのは自国の地形を熟知しているポーランド人パイロットだね。
こんな超低空飛行任務は、航空自衛隊ならばF2A飛行隊が得意としている。かつて、北海道の千歳基地の戦闘飛行隊では、山肌に隠れて低空飛行する訓練をよくやっていると聞いたことがあります。『トップガン2』の予告編を見て、FA18で同じ様な飛び方していて懐かしかったですね」
この作戦ならば、ミグ29をウクライナに空中輸送することが可能だという。しかし、杉山元空将補の話には、その先がある。
「アメリカの今の政権は、すぐに戦闘機供与を検討する話を出したりと、軍事的センスがない。ウクライナは、この戦争にNATOを巻き込むために戦闘機が欲しい、と言っているだけ。15機のミグ29があっても、ウクライナが役立てられるのかは疑問です。
さらに、このフェリー作戦をやればその成否に関わらず、プーチン大統領を本気にさせてしまう。そうなったときのロシアの怖さを、NATO諸国は熟知している」
ロシアのラブロフ外相は「NATOがウクライナに手を出せば、第三次世界大戦になる。それは核戦争だ」と明言している。つまり、ポーランドからのミグ29空輸作戦は、核戦争を引き起こす危険をはらんでいるということになる。世界は全面核戦争の危機に瀕し続けることとなる。
「だから、この作戦は最初から止めた方がいいと思います」(杉山元空将補)