『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、立憲民主党が政党政治を守るためにも、ケンカを仕掛けるべき相手は日本維新の会と安倍元首相である理由を解説する。

(この記事は、4月4日発売の『週刊プレイボーイ16号』に掲載されたものです)

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野党第1党・立憲民主党が危機に陥っている。支持率は低迷し反転の兆しが見えない。改革アピールで勢いに乗る日本維新の会に押されっぱなしの状況だ。

国会でも棒読み答弁で論戦を避ける岸田文雄首相を攻めあぐね、世論に響く争点を提示できない。リベラルの牙城、新潟県の知事選(5月29日投開票)でも与野党一騎打ちの構図を作れず、立憲独自の候補擁立断念、自主投票へと追い込まれた。

参院選まで残り100日を切った。このままでは負けだ。その危機感は泉健太代表が最も強く感じている。先日、彼と政局について意見交換をした折に「流れを変える方策はないかと必死に考えています」と語っていた。

その答えになるかはわからないが、私なりに思うことがある。実は、国会の質疑では、立憲の各議員は実直に与党に政策論争を挑んでいる。しかし、柳に風の答弁を繰り返す首相が相手では白熱した論戦には見えず、「ケンカ」好きのテレビ局は報道しようとはしない。

だから、「ケンカ」の矛先を変えるべきだ。まず最も力を入れるべき相手は「維新」だろう。

同党は近年、立憲への批判を強めてきているが、立憲は各論で反論こそするも、党として真っ向対立する姿勢は見せていなかった。それを転換するのだ。

今、維新には隙がある。橋下徹元代表のウクライナ情勢に関するコメントが炎上。医療崩壊に至ったコロナ対応や強引なカジノ誘致など、維新が劣勢に立つネタが増えている。こうした「弱点」に的を絞って国会、街頭、ネットで徹底論戦を挑めば、「戦闘」好きな維新相手でも互角以上の戦いができるはずだ。

そして、もうひとつケンカを仕掛けるべき相手は「安倍元首相」だ。辞任から約1年半もたつ彼をいまさら標的にしてなんの意味があるのか? 説明しよう。

折しも、ロシアのクリミア併合後に経済協力として官民で3000億円を「貢ぎ」、プーチンを増長させたとして、安倍元首相批判が高まっている。

アベノミクスがもたらした過剰な円安も不評。安倍長期政権下で日本の産業が世界の潮流に後れを取ったことも明らかになってきた。これらの安倍元首相の「大失敗」をどう考えているのか、国会で岸田首相に問うのだ。

なぜ現首相に? 安倍元首相は最大派閥の長として今も自民党に強い影響力がある。常にどっちつかずの岸田首相だ。党内不和を恐れ、野党の追及にもお茶を濁した回答をするに違いない(安倍元首相の「日本も核共有の議論を」との提言について岸田首相は即否定したが、これは彼が広島出身の政治家だからという特殊事情による例外だ)。

それと併せて「岸田政権の政策は基本的に安倍政治を継承している。敵基地攻撃能力の保有、防衛費増、無節操な金融緩和などはその典型だ。つまり、岸田政権は『安倍政権』の延長にすぎない」と批判すれば、「安倍元首相をキッパリ否定できない岸田首相」は「安倍元首相と同罪」と国民の目には映るだろう。

しかも、安全保障やエネルギー政策など、安倍元首相と維新の政策は親和的だ。この両者を同時に批判する意味は大きい。

維新が増長し、野党第1党の座に就けば与野党対立の構図が曖昧になり、政党政治は有名無実化する。その後の自民の暴走は必至だろう。政党政治を守るためにも立憲が「存在感を示せる」野党第1党になることが必要だ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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