4月1日、「アメリカが旧ソ連製戦車をウクライナへ供与の方針。しかしその種類や供与の方法は非公表」という報道があった。そして4月4日、ポーランド国内で旧ソ連製のT72M1戦車がトレーラーに載せられ輸送される映像が撮られている。
各国の軍隊に詳しいフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は、戦車を供与する国とその数を以下のように予測する。
「T72を供与できそうなのはブルガリアが350両、ルーマニアが30両。アメリカからM1戦車を買うポーランドからは、無用になるT72M1が70両と推定します。そしてチェコが5両を引き渡すことが決定しており、多く見積もれば400両以上の供与が可能になるのではないかと思います」
では、供与する戦車のウクライナへの輸送方法はどうするのか? 元米陸軍ストライカー師団情報将校の飯柴智亮氏に予測してもらった。
「空路では、戦車を空輸できる輸送機は限られていて、1機につき1両の輸送となるとかなり効率が悪いです。しかもそれがロシア軍地対空ミサイルで撃墜されるようなことがあれば、第3次世界大戦の引き金になってしまう。
海路を使い黒海沿岸からの陸揚げは可能ですが、黒海航行中にロシア海軍に撃沈される可能性が非常に高い。そうなれば陸路を選択するしかない」
ポーランドから戦車軍団が連なりウクライナに向けて進軍、というやり方になるのだろうか?
「それは現実的ではありません」と元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補は言う。
「戦車は200キロも走れば整備が必要になるからです。自走させた場合、ポーランド国境からの距離だと戦場手前で整備をしなければいけなくなります。ですので通常、鉄道か輸送用大型トラックに載せて運びます」
しかし、軍の兵隊を輸送ドライバーにあてれば、NATOの軍事介入とみなされ、これもまた第3次世界大戦の引き金となる。そこで、トラック輸送を担う民間ドライバーを探すしかない。
現地の事情に詳しい情報筋によると、片道1000ユーロ(約11万五千円)も払えば引き受ける者は多くいるのではないかという。
その場合、輸送ルートの警備はどうなるだろうか。
「ロシア軍ゲリラからの攻撃が予想される重要拠点にはあらかじめ歩兵部隊を置き、航空攻撃が予測される場所には対空火網を構成します。
まず、ポーランド国境付近には、巡航ミサイルに対応でき射程距離が長く、防空傘が大きい「S300」を配備します。それで隙間が出来る所には、対空機関砲と射程の短い地対空ミサイル、携帯式スティンガー対空ミサイルで対処します。この対空火網を複数作り、東部・南部までの輸送ルートをカバーします。合せて、ウクライナの防空網の構築を進めていきます。
ポーランド上空にはNATOの早期警戒管制機やその他様々な偵察手段から、ウクライナ全域とその外域までの航空機・ミサイルの情報が入りますから、それを活用して警備します」
この作戦が成功すれば、400両を越える戦車と、ドイツから提供される50台のBTR(装甲兵員輸送車)で機甲部隊を作り、反撃に転じることになるのだろうか。
「戦闘部隊は数が揃えば自在に動くと考えるかもしれませんが、そう簡単ではないのです。ウクライナには、ポーランド国境東側・ハリコフ・ドンパス・ヘルソンには計4個の機械化旅団があります。そこで損耗した戦車の補充のために使うべきです。
東部平原でのロシア軍機甲部隊と正面からの戦車戦になれば、ウクライナは分が悪い。だから無人ドローン、対戦車兵器ジャベリン、対戦車ミサイルNLAWの組み合わせでロシア軍を分断し、そこへ機械化旅団の戦車を主体とした機甲部隊による機動打撃を行う戦い方を繰り返しながら、開戦前の線までロシア軍を押し返し、失地を回復することが作戦目標となります。
マリウポリのある黒海北岸での戦いは熾烈になります。この海岸戦をウクライナが奪還しないと、諸外国と海上貿易が出来ないからです」
戦車の供与、輸送はこの戦争の大きなカギになりそうだ。
「戦車を輸送した大型トラックは、帰りは損傷した戦車を回収して帰ります。チェコがT72戦車の修理を申し出ていますので、そこで修理して再び最前線へ持って来ます。戦争は武器と補給物資の供給が常になければ続けられません」
新たに供与される戦車によって、戦争の終結は早まるのだろうか。