4月11日、スロバキアのヘゲル首相は、同国が保有する12機の『ミグ29』をウクライナに供与することについて検討すると述べた。この『ミグ29』12機は、ロシアとウクライナの戦争の行く末を左右するカギになりうるのだろうか? 世界の軍事事情に詳しい識者たちに話を聞いた。
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東欧の戦闘機に詳しいフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は、スロバキアの戦闘機供与検討について驚きを隠せない。
「スロバキアに12機しかない『ミグ29』をすべて渡すという考えは、信じられません。スロバキアは『F-16V』をアメリカに発注中ですがまだ届いていないので、失った戦力はNATOが穴埋めする条件になるのでしょうが......。
スロバキアの『ミグ29』は『ミグ29AS』といって、搭載武器はロシア仕様ですが、敵味方識別装置などのアビオニクス(航空機の操縦や運行管理のための電子機器)をNATO仕様(英米製)に換装しています」
スロバキアからの『ミグ29』の輸送方法について、元航空自衛隊空将補で、那覇基地302飛行隊隊長を務めた杉山政樹氏は次のように推測する。
「スロバキアとウクライナは山岳地帯で国境を接しています。映画『トップガン2』に登場する『FA-18』のように、山岳地帯を這うように飛行してこっそりと運ぶのが良策でしょう」
そうなれば、戦いが激化しているウクライナ東部に投入されるのだろうか?
「ウクライナ東部はロシアから近く、ロシアの組織戦闘能力内となります。ウクライナ空軍がロシア空軍と正々堂々と戦うのは不利です。1999年2月25日、エチオピア空軍『Su-27』2機とエルトリア空軍『ミグ29』4機が空戦となった。そのとき『ミグ29』は3機が撃墜されています。
この結果からも、制空戦闘専門でミサイル10発が搭載可能となりさらに強くなったロシア空軍戦闘機『Su-35』と、戦術戦闘機でミサイル4発が搭載可能な『ミグ29』が同じ様に向き合えば、ロシア軍が有利。したがって、東部に『ミグ29』を飛ばせば、ロシア空軍に落されてしまう可能性は非常に高い」(杉山氏)
では、『ミグ29』が供与されればどのように運用すべきなのか。まずは前出の柿谷氏に『ミグ29』の得意とする性能について解説してもらった。
「『ミグ29』は整地滑走路に着陸した後でも、タキシング(航空機が自らの動力で地上を移動すること)時にインテーク(空気の取り入れ口)を閉め、路面の石や砂、泥、氷などを吸い込まないようにしています。首脚には泥跳ねを防止する泥除けも備わっており、この性能は未舗装滑走路や不整地においての離着陸に非常に有効です」(柿谷氏)
そうであれば、航空基地や飛行場でなくとも、現在戦争により作付けが不可能になっている広大な小麦畑に臨時飛行場を作り、そこで『ミグ29』を運用することもできそうだ。
前出の杉山氏に、『ミグ29』の有効な運用法について聞いた。
「ウクライナ海軍がロシア艦隊旗艦『モスクワ』を撃沈し、プーチン大統領は顔に泥を塗られた形になった。そのパターンと同様のやり方で『ミグ29』を使う方法があります。『ミグ29』を囮(おとり)にし、ロシア空軍戦闘機『Su-35』をスティンガーで攻撃する、というものです」(杉山氏)
ウクライナ軍は地上戦において、無人ドローンと携帯型対戦車ミサイルで戦闘を有利に進めている。その空版が『ミグ29』と『スティンガー』ということだ。その作戦とは、具体的にどんなものなのか。
「まずは4機の『ミグ29』を超低空で飛行させ、ロシア軍が占領した地域を空爆して注意を引き付けます。ロシア空軍『Su-35』が現れると翼を翻し、西部に帰投する形を作る。上空には制空担当の『ミグ29』2機を飛ばしておき、その2機が逃げ遅れた風を装い、それぞれ単機で逃げます。
途中、追手の状況を見極めながら『ミグ29』を低高度600mまで下げると、高度6000mあたりにいるはずの追手の『Su-35』はルックダウンで低高度の目標を補足しなければいけないが、これは必ずしも上手くいかない。なので、ある程度の低高度まで降下して来るはずですので、そこを狙います」(杉山氏)
『Su-35』を小麦畑などに急造した臨時飛行場へと誘導し、スティンガーで狙い撃つのだろうか?
「臨時飛行場に着陸するとなると『ミグ29』は速度を落さなければならず、『Su-35』が一気に距離を詰めてきます。ですので、その作戦はあり得ません。
スティンガー狙撃兵が潜む高層の建物がある地帯をいくつか準備しておき、そこへロシア空軍機を誘い込みます」(杉山氏)
そこでスティンガーが登場することになる。スティンガーとはどんな武器なのか?
「スティンガーは携帯型の短距離地対空ミサイルです。射程は4㎞から5㎞。赤外線・紫外線ホーミングで当てますので、打ちっぱなしにできる。運用が比較的容易な武器です」(柿谷氏)
狙撃兵のスティンガーで、まず1機を狙い撃つ。
「ロシア空軍で組織戦闘をする制空戦闘機『Su-35』は、必ず2機で行動します。僚機はリーダー機が撃墜されたのを見ると、翼を翻します。
そこで『ミグ29』の特性である低速域でのコントロールの良さを旋回性能で発揮し、『Su-35』を逆に追跡、空対空ミサイルで狙います」(杉山氏)
ロシア空軍戦闘機が2機撃墜されることになれば、これは『モスクワ』の撃沈と同様、プーチン大統領の顔に泥を塗る形となる。
「ただし、これは情報戦争において一時勝利できる奇策であって、ウクライナ空軍の根本的な勝利にはなりません。『ミグ29』が供与されたとしても、このような使い方しかできないのではないか、ということです」
18日には、東部ドンバス地方でロシア軍が大規模攻撃を開始している。この戦争の終わりはまだ見えそうにない。