『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、ロシアとウクライナ冷戦終了後の新興国や途上国の動きに注目する。

(この記事は、4月18日発売の『週刊プレイボーイ18号』に掲載されたものです)

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ウクライナへの侵攻で高まるロシアへの非難の声。その先頭にいるのはアメリカだ。バイデン大統領は「権力の座にとどまるべきではない」とプーチンを名指しで非難するだけでなく、ロシアとの戦いを「専制と強権政治から自由と民主主義的価値を守る戦い」と位置づけ、世界が一致協力して対峙(たいじ)することを各国に呼びかけている。

それに呼応して、日本もロシア外交官の国外追放、ロシア産石炭の輸入削減など次々と対露制裁のメニューを打ち出した。

ただ、対露批判一色のように見える世界の動きも、つぶさに見れば一様ではない。例えば、3月上旬に国連総会の緊急特別会合で採択されたロシア非難決議は全会一致ではない。141ヵ国が賛成したものの、5ヵ国が反対、35ヵ国が棄権に回っている。さらに4月7日に採択された国連人権理事会からのロシア追放決議に至っては、賛成は欧米を中心に93ヵ国に減った。

一方で反対は中国やロシア、北朝鮮など24ヵ国、棄権はインドやブラジル、アラブ首長国連邦(UAE)など58ヵ国で、反対・棄権に無投票を合わせると合計は100ヵ国となり、賛成を上回った。

私がここで注目するのは、反対や棄権に回った国は、侵攻の主犯であるロシアや、アメリカと明確に対立している中国とともに、「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)」や「VISTA(ベトナム、インドネシア、南ア、トルコ、アルゼンチン)」などと呼ばれ、将来の成長が期待される新興国が中心であることだ。

その背景にはロシアや中国からの圧力もあるようだ。しかし、それ以上にアメリカが中心になってつくる国際秩序に対する不信感があると思えてならない。

新興国や途上国の間には「冷戦終了後にアメリカとその同盟国が主導した国際秩序は、自由や正義の名を借りた自由市場主義のルールによる秩序にすぎない」という認識が広がっており、かつての宗主国だった欧米が上から目線で唱える正義や価値観に仕切られるのはまっぴらだという思いがある。

特に、自国の利益のために「正義の味方」を装い、世界各地の紛争に介入してきたアメリカへの嫌悪感はかなり根強い。今後予想される米中対立の局面でも、新興国や途上国から、アメリカではなく中国サイドに立つ国が多く出てくる可能性は高いだろう。

思い出すことがある。私が2014年にアフリカのルワンダを訪れたときのことだ。同国は中国から巨額の開発援助を受けており、現地では現場監督を含め大勢の中国人が建設現場で働いていた。私が現地のルワンダ人に「大量進出する中国企業に脅威を感じないか?」と聞くと、こんな返事があった。

「武力でわれわれを植民地支配した(欧米の)ベルギーより、経済進出で金をばらまく中国ののほうが、ずっとましだ」

世界は自由と民主主義の価値観を共有する欧米と中露などの独裁国の冷戦時代に入ったとする論調が多いが、冷戦後の欧米中心主義の秩序を固守する勢力、中露などの独裁大国の勢力、そして、そのどちらにも与(くみ)しない勢力の3つに割れているという見方もできる。

世界が二分されるという単純な議論に乗ってアメリカに追従するだけでは道を誤る。冷静に新興国や途上国の言い分に耳を傾け、日本独自の外交ポジションを構築すべきだろう。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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