『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、文通費を「日割り支給」に改める法案が成立したが、この「開き直り」とも取れる法改正は文通費の使途拡大を狙ったものにしか見えないと語る。
(この記事は、4月25日発売の『週刊プレイボーイ19号』に掲載されたものです)
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4月15日、国会議員に給与に当たる歳費とは別に毎月支払われる文書通信交通滞在費(文通費)を「日割り支給」に改める法案が成立した。
これまでは毎月一律で100万円が支払われる仕組みだった。しかし昨年10月31日の衆院選で当選した新人議員らに在職1日で満額が支給されたことで世論の批判が高まり、国会で「改革」の議論が進んでいた。
これで民間ではありえない議員への厚遇が、ようやく一部是正されることになった――と言えればいいのだが、今回の法改正はハッキリ言って改悪である。
まず、肝心の問題は手つかずのままだ。文通費には使途公開や領収書添付、未使用分の国庫返納などのルールがない。議員にとっては人件費や飲食費など何にでも使える、事実上の「第2の歳費」だ。
本来なら、日割り支給と一緒にこうした問題も解消すべきだが、国会では共産党を除く各党は日割り支給だけで合意し、法案を可決した。
驚いたのは「日本維新の会」も賛成に回ったことだ。同党は「日割りだけが先行することに同意できない」(藤田文武幹事長)などと可決の数日前には反対の姿勢を示していた。可決後の18日、松井一郎代表は「(次の改正は)領収書の公開が絶対条件だ」と強調。文通費の改革が不十分だと認めている。
しかし、今回の法改正は不十分なだけでなく、領収書の公開などを無意味なものにする罠(わな)が仕込まれている。それが今回の法改正の最大の改悪ポイント、名称を「文通費」から「調査研究広報滞在費」に変え、その目的を「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため」としたことだ。
本来、文通費は「公の書類を発送し、公の性質を有する通信をなす等のため」に支給されるものだが、名称と目的の変更により、文通費を〝より実態に近づけた〟というわけだ。
しかし、この「開き直り」とも取れる法改正は、むしろ文通費の使途拡大を狙ったものにしか見えない。「調査研究広報滞在費」の目的にある「国民との交流」はその最たるもので、この条文なら、例えばどんな人との会食でも飲食代を経費として扱ってもOKということになる。
今後、領収書公開や未使用分の国庫返納について、あらためてルールの導入が図られるだろう。だが、事実上「何に使ってもいい」とお墨付きを与えたことで、領収書の中身や、いくら使ったのかなどを公開してもほとんど意味はなくなる。すべては「国民との交流で飲食しました」と言えば済むからだ。
文通費を使い込む議員にとって、今回の法改正は実に都合のいいものに映っただろう。維新やほかの野党もそれを十分に理解しているからこそ、今回の法改正に賛成したのかと疑いたくなる。
今回の事態を見れば、文通費の厳格なルール作りを同費用の恩恵を受ける政治家たちに任せるのは無理だということがよくわかる。政界と利害関係のない第三者委員会を設置し、そこに委ねることを検討すべきだ。
地方議会では、政務活動費の使途や領収書を公開するルールの厳格化が進んでいる。市民との距離が近く、議員も民間と同じルールにしないと選挙で落ちると肌で感じるのだろう。国会議員にも見習わせるべきだが、そのためには次の選挙で落選させるぞと、国民が議員たちに向けて声を上げることが必要だ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中