5月3日、海上自衛隊の最新鋭護衛艦FFM(※)『もがみ』が横須賀基地に配備された。これは同型艦FFM『くまの』に続いての配備となる。『もがみ』は北欧海軍の海戦方法を取り入れて開発された新造艦だ。
※FF=フリゲート(駆逐艦より小型艦)、M=Mine Warfare(機雷戦)または、Multi-purpose(多目的)の意。
最新艦『もがみ』型2隻の横須賀基地配備には、いったいどんな意味があるのだろうか?
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5月10日にフィンランドのサンナ・マリン首相が来日しているが、北欧にあるこの国と日本には、「隣国がロシア」という共通点がある。
ウクライナ戦争で明らかになったロシア軍の主戦略の一つが、黒海とウクライナの黒海海岸を占領し、ウクライナを実質的に内陸国にしてしまう、というものだ。
仮に日本とロシアが戦争状態となった場合、ロシアは日本周辺の制海権を握り、ウクライナと同様に日本を"内陸国化"しようとるすと予測される。
一方、フィンランドはロシアと陸続きで、両国の港の距離は東京―名古屋間(約265km)程度。戦争が始まれば、フィンランドの港はロシアによってすぐに機雷封鎖されてしまう可能性が高い。
そんな形でロシア海軍に制海権を奪われないために、フィンランド海軍はロシア海軍基地周辺や海峡、自国領海域など適切な海域に、素早く機雷を敷設しなければならない。
このような北欧の状況を手本とし、日本が"内陸国化"されないための防衛任務を担当するのが、前出の海自FFM『もがみ』型護衛艦だ。2030年代半ばまでに22隻を建造し、このまま掃海隊群直轄か、全国の掃海隊群隷下部隊掃海隊に配備され、さらに護衛隊群に配備される。
127mm主砲、17式艦対艦ミサイルに短魚雷も搭載しているが、ポイントとなるのは艦尾左舷の四角いハッチから敷設される爆雷だ。海自艦艇を撮影し続けているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう言う。
「のっペリとした艦影のステルス艦はレーダーに映りづらい。乗員はわずか90人と通常の護衛艦の半分以下。30ノットで封鎖する海域に急行し、機雷敷設戦を開始します。
横須賀にFFM2隻が最初に配備されたのは、横須賀に掃海隊群司令部があるから。また、2年前に新編されたFFM乗員の教育訓練なども担当する『水陸両用戦・機雷戦戦術支援隊』において、機雷戦と対水上戦を1つの艦種で同時に運用する方法を確立するためです」
敷設海域は宗谷、津軽、対馬海峡と北方領土周辺だ。
「ウラジオストックにいるロシア艦隊を日本海に封じ込めるためです」
この任務は、1996年まで機雷敷設艦『そうや』が機雷300発以上を搭載して担当していた。その後『ぶんご』型掃海母艦2隻が引き継いだが、最大速力22ノットで武装は76mm砲一門のみ。それと比べれば、FFM『もがみ』型の高速重武装が分かる。
「『もがみ』は前方での機雷敷設戦を終えると、すぐに戦闘態勢に移ることができます。敵は上陸作戦を進める前に、まず目の前の機雷除去から始めなければなりませんから、『もがみ』型が機雷敷設に続いて沿岸で睨みを利かせられれば、敵は諦めざるをえません。ウクライナ戦でも分かるように、ロシア海軍は1隻やられたら後ろに下がるしかありませんでした。
さらに『もがみ』は艦尾ハッチから機雷を除去処理できるEOD(水中処分員)の乗ったボートが出入りできます」
すなわち、機雷敷設戦と同時に機雷を除去する掃海任務も可能というわけだ。
「海自掃海隊群は掃海任務のディフェンスと、FFM『もがみ』型のオフェンスという基本原則がはっきりと見えてきました。ロシア海軍から見ると、FFMが何隻も大湊や函館に配備されるのは嫌でしょうね」
写真などで見比べると、海自FFMは北欧海軍艦艇を進化させた形のように見える。
「北欧海軍は予算が潤沢ではないので大型艦が持てず、小型の哨戒艦やミサイル艦に機雷敷設装置が付いています。緊急時には、ロシア艦艇が来る前に素早く機雷を撒こうとしています。
海自においては将来的に、対ロシア戦を想定した場合にはFFM艦隊で素早い機雷敷設戦を行い、ロシア艦隊を日本海に封じ込め日本近海を防御。同時に、東シナ海では空母『いずも』型とイージス艦の空母艦隊が中国空母艦隊と対峙するという、2正面作戦が可能です。
さらに最前線には海自潜水艦『たいげい』型がいます。日本の海は堅固な三段防衛体制となります」
さらに、FFM『もがみ』の役割はそれだけではない。
「FFMの『M』には機雷戦の『Mine Warfre』の他に、『Multi-purpose』、つまり多目的という意味も込められています。『もがみ』は海自特別警備隊SBU、陸自特殊作戦群SOGが日本沿岸域で特殊作戦を行う際の母艦としても有効だと思います。『もがみ』はヘリコプタ―搭載能力があり、さらに艦尾からRIB艇(複合型ゴムボート)の発着が可能ですから、沿岸部に素早く特殊部隊を派遣することも可能です」
FFM艦は対ロシアだけでなく、南西諸島方面では対中国用として活動することもあるかもしれない。