『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、カジノ誘致について大阪府市が公表したIR整備計画のすべての想定がザルすぎると指摘する。
(この記事は、5月16日発売の『週刊プレイボーイ22号』に掲載されたものです)
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4月27日、大阪府市と長崎県がカジノを含むIR(統合型リゾート施設)の誘致に向け、国に「区域整備計画」を申請した。IR基本法により開業できるカジノの上限は3ヵ所だ。
当初は30超の自治体が誘致に動く「カジノブーム」の様相を呈したが、ふたを開けてみれば、申請したのは大阪と長崎だけ。カジノで地方再生など、甘い夢だと多くの自治体が気づいた。もちろん、大阪、長崎も前途多難だ。
まず「ハウステンボス」の隣接地で開業を目指す長崎は資金計画が不透明だ。4383億円という巨額を出資する企業が「非公表を希望」との理由で県が議会や住民側に投資計画を明かさないため、資金調達の実現可能性への不信が高まっている。
その点、アメリカのIR大手であるMGM社や、オリックスなど22社から5300億円の拠出が固まっている大阪のカジノ誘致計画は一見、堅調に映る。
だが、今年2月16日に大阪府市が公表したIR整備計画を見ると、その印象は一変する。年間の来場者数や売り上げなど、すべての想定がザルすぎるのだ。
例えば、2019年に作成された「IR基本構想」では、施設の年間来訪者は2480万人、そのうち590万人がカジノを利用するという見積もりだった。ところが、今年2月の整備計画では来訪者が1987万人に減る一方で、カジノ客は1610万人と逆に大幅増。しかも、増加分の大部分は日本人客だ。
大阪の人気テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」でさえ、公表数字では年間1460万人(16年度)が最高。6000円もの高額入場料を考えれば、この想定は「絵に描いた餅」と言われても仕方ない。
収益予測もずさんだ。大阪は1600万人の来場で4200億円を見込んでいる。しかし、アジア有数のカジノとして有名なシンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」でも来場者4500万人、カジノ年間収益2400億円だ。どう見ても甘すぎる見積もりと言わざるをえない。
カジノ誘致を進める大阪維新の会が掲げた「府民、市民の負担はゼロ」という約束もほごにされた。カジノ運営企業の強い要請により、カジノ開業予定地・夢洲の土壌対策費790億円が強引に計上されたのだ。「詐欺」という批判も当然だろう。
また、IR基本構想には「基本協定の解除」という見慣れない一項があることも問題視されている。カジノ企業側が国の定めるカジノ運営ルールや自治体の対応に不満だったり、カジノ客が見込みを下回って採算が取れないと判断したりすれば、契約を一方的に解除して「撤退」できるのだ。企業側もこの計画では不安なのがよくわかる。
コロナ禍での人出の減少やオンラインカジノのブームにより、箱モノカジノは完全に時代遅れになった。しかも、中国の習近平(しゅう・きんぺい)政権が金持ちを敵視する「共同富裕」政策を導入したため、中国富裕層の財布も当てにできないという八方ふさがり。このまま突き進めば、大失敗は不可避だ。
それでも、大阪では「維新の威信」をかけたプロジェクトであるため止まらないという。
大阪ではカジノ反対の声が高まり、賛否を問う住民投票を求めて市民がデモや署名運動に乗り出した。7月の参議院選挙では「カジノ誘致の是非」が大きな争点として浮上し、党勢拡大を狙う維新の足をすくう展開になる可能性が高まっている。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中