『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、イーロン・マスク氏が指摘した少子化問題に限らず、今の岸田文雄政権は日本の無策ぶりを象徴していると指摘する。

(この記事は、5月23日発売の『週刊プレイボーイ23号』に掲載されたものです)

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「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」

5月7日、米テスラ社のCEO、イーロン・マスク氏が突如、日本の少子化に警鐘を鳴らすツイートを投稿し、波紋を呼んだ。

マスク氏の認識は間違いではない。事実、昨年の日本の人口減は約61万人で、人口55万人の鳥取県が丸々消滅したに等しい。このまま減少が続けば、今年は島根県(67万人)や高知県(69万人)に匹敵する人口が消滅することになるし、この流れを変えることができなければ、やがて日本は消滅してしまう。

このマスク氏の発言に関連して、思い出す人物がいる。世界有数の投資家として著名なジム・ロジャーズ氏だ。数年前に来日中の同氏と対談する機会を得たのだが、その席で彼はこう言った。

「私が日本人で10歳の子供なら、一刻も早くこの国を飛び出すことを考えるだろう」

日本は深刻な出生率の低さにもかかわらず、移民の受け入れに消極的。必然的に歳入減に陥るが、国の借金を膨らませることで生活水準を維持しており、人口減という国家存亡のリスクに対してあまりに無策、この国に未来はないと真顔で語っていた。

少子化に限らず、今の岸田文雄政権は日本の無策ぶりを象徴しているかのようだ。同政権は「新しい資本主義」を掲げ、資産所得倍増プランをぶち上げたり、外遊先のロンドンの金融街で「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と日本への投資を呼びかけたりしている。

しかし、出てくる政策はバラマキと過去に失敗した政策の焼き直しばかりで、次の成長に向けた具体的な改革メニューはない。

一方、日本の国力がすでに衰退し始めているという危機感は、国民の間でもようやく共有されつつある。日経新聞が昨年末に行なった世論調査では、日本の経済力を「強い」と答えた層は2018年より17ポイントも低下して20%。その逆に「弱い」は24%から43%に跳ね上がり、「強い」の2倍にもなった。

コロナ禍の影響は無視できないが、わずか3年間で、これだけ多くの人々が日本経済の急速な衰えを認識するようになったというのはやはり尋常なことではない。

だが、岸田政権が意欲を燃やし、具体的な政策メニューとして挙がっているのは、憲法改正や敵基地攻撃能力の保有、国防費をGDP(国内総生産)の1%から2%へ増やすことなど、安保関連のものが目立つ。これは自民党の最大派閥・安倍派が同じく実現に前のめりになっているテーマだ。

岸田氏にとって、野党はもはや恐れる存在ではない。長期政権実現のためには、自民党最大派閥である安倍派の協力こそ最重要だ。そこで大ボス、安倍晋三元首相のご機嫌取りに徹するということだろう。

だが、国防費を「対GDP比2%」にするには、5.6兆円もの歳費の積み増しが必要だ。その分、国のDXやグリーンなどへの投資や教育費、社会保障費などが割を食う。成長は期待できず、格差是正も不可能だ。

前出のロジャーズ氏は対談で、「このまま日本が衰退すれば、日本語しか話せない労働者はビジネスチャンスだけでなく、まともな職さえ得られなくなる恐れがある。英語か中国語を習得すべきだ」とも警告していた。この言葉を日本人全員が重く受け止め、軍事よりも経済を優先する政策をと声をあげるべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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