『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、メディアは内閣不信任に踏み切った野党の動きを評価し、その不信任理由をしっかりと国民に伝えるべきだと指摘する。

(この記事は、6月20日発売の『週刊プレイボーイ27号』に掲載されたものです)

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6月9日、立憲民主党が提出した内閣不信任決議案が衆議院本会議で反対多数で否決された。この件に関する報道を見て思うことがある。

時の政権のお粗末な仕事ぶりを追及することよりも、不信任案を出した野党を冷笑することに熱心な記事があまりにも多くはないか? 例えば、こんな見出しだ。

「不信任案提出、立民迷走の末 他党冷ややか、漂う孤立感」(時事通信、6月9日)

「そこじゃなかった『切り札』 露呈した野党分断 不信任2案否決」(毎日新聞6月9日)

内閣総理大臣は衆院の多数によって指名される。そのため、内閣不信任案は与党内の造反などがない限り、可決される可能性は低い。しかし一方で、本会議の討論において、野党が不信任理由を整理して提示することで、政府の問題点や与党と野党の政策の差異などが国民にわかりやすく示される。

実際、決議案には岸田文雄内閣の物価高騰への無策ぶりや予算拡大偏重の防衛政策への批判など、不信任の理由が明確に整理されている。

参議院選挙の公示(6月22日)はもう目の前だ。以前にも本コラムで指摘したが、参院選が終われば衆院解散か内閣総辞職といった政変でも起こらないかぎり、3年間は大きな国政選挙がない。

つまり、参院選で自公が勝利すれば、野党が不信任案で問題点として指摘する岸田内閣の政策は「国民の信を得た」として、すんなりと実行に移されかねないのだ。

その意味で参院選直前に立憲が内閣不信任案のカードを切り、与野党の政策の違いを示すのは国民の利益にかなっている。

今国会の岸田首相は党首討論もなく、野党の質問にも従来方針の繰り返しや一般論でかわすシーンが目立った。国会の質疑は低調だったと言ってもよい。

そこに野党から不信任案が提出された。本来なら、メディアは内閣不信任に踏み切った野党の動きを評価し、その不信任理由をしっかりと国民に伝えるべきだろう。参院選の公示が目前に迫っていることを考えれば、なおさらだ。

ところが、そうした視点から立憲の不信任案提出を伝えるメディアはごくわずかで、「否決されることがわかりきっている不信任案の提出は泉 健太代表のパフォーマンス」といったあら探し的なトーンの記事が横行した。

また、不信任案に日本維新の会、国民民主党などが自公と共に反対に回ったことで、有権者はこの2党が与党の補完勢力だと知ることができたのだが、これについても単に野党の足並みの乱れを強調する論調ばかりが目立った。

一方で、「参院選は自公大勝」という予測記事が日々、量産されている。これでは参院選への関心は薄くなるばかりだ。過去最低の投票率である44.52%(1995年の参院選)をさらに下回る記録が出る可能性は低くないだろう。

もしそうなったとき、今夏の参院選が盛り上がらなかった原因をつくった主犯は、間違いなくこの国のメディアだと言わなければならない。

メディアはこの参院選で日本の今後3年間の大きな方向性が決まってしまうことに警鐘を鳴らすべきだ。その上で、与野党が掲げる政策にどのような差異があり、どのような争点が浮上しているのか、有権者の関心を惹ひきつける工夫を凝らしてしっかりと報道してほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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