6月15日(水)、ウクライナ東部のハリキウ周辺にて、ウクライナ軍にいた米国人戦闘員2名がロシア軍に拘束され、東部ドンバス地域の親露派武装勢力に引き渡された。
その米国人2名は戦闘中に友軍から逸れ、森を彷徨し、集落に出た所でロシア軍に見つかり投降。その後ロシアのテレビに出演し、ひとりは母親に向けて『僕は生きている。出来るだけ早く家に帰りたい』と呼びかけたという。
いっぽう、その米国人の一件以前にロシア軍に捕らえられた英国人戦闘員3名は先日、ドネツク共和国の裁判所で「ウクライナ軍の傭兵として戦闘に参加した」として死刑判決が下されたが、ラブロフ露外相は「ドネツク共和国の司法制度には干渉しない」と明言している。
ここにはロシア軍の巧妙な戦略がある。ロシアはウクライナ東部で親露派武装勢力が支配する「ドネツク共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認(両国に関しては米英など西側諸国は主権を認めていない)。通常、国軍兵士は戦時国際法のジュネーヴ条約で「捕虜」として命が保障され、捕虜交換などの機会に母国に帰れる。しかし、傭兵は違う。1977年に採択されたジュネーヴ諸条約追加議定書の第1追加議定書第47条1項にこう記されている。
<傭兵は、戦闘員である権利又は捕虜となる権利を有しない>
すなわち、両手を上げて投降しても、傭兵と分かればその場で捕虜にせず射殺が可能なのだ。
ロシアの狡猾な所は、その裁判を親露派武装勢力が支配する「ドネツク共和国」と「ルガンスク人民共和国」に完全に任せている点だ。つまり、「ロシアは一切関与してません、その共和国の司法判断ですから」と説明できる。
この件に関して、かつてアフガンに義勇兵として参戦後、アジアのカレン民族解放戦線やクロアチア外人部隊に所属、数々の激戦を傭兵として経験した高部正樹氏はこう語る。
「傭兵は戦場で殺されても文句は言えません。英国人3名は裁判で死刑を言い渡されたようですが、戦場で処刑されるよりマシです。だから、傭兵になるならば、この米国人のようにいざ捕まったら、『お家に帰りたいです、国に帰りたいです』と泣き付くのは違うのではないかと思います。家族、国を捨てて、戦争に行くのが傭兵ですから。だから、自決、自分で死ぬ覚悟が必要です。
また、ジュネーヴ条約の追加条項の内容など、最前線では無意味です。傭兵か、民間人か、敵国兵士なのかを決めるのは結局、捕まえた方なんです。『こいつらは傭兵だ』と言われればそれで決まりです。外国人は皆そうです。だから、拘束されている段階で結構な人数が殺されているじゃないですか? アフリカ、東南アジアから来た人たちはほとんど殺されて、利用価値のある英米人だけが生かされている。その場で処刑しちゃう方が面倒臭くないんですよね」
非情なる戦場の掟である。
「だから、私がかつて所属していたクロアチア外人傭兵部隊の傭兵たちは、ポケットに自決用の弾丸を入れていました。僕は左の胸のポケットに5発入れていました。弾倉の弾を全て撃ち尽くした後、最後の5発を装填して、4発は敵に、最後の1発は自分にと。絶対に敵に捕まりたくないと言う傭兵のプロ意識が彼らにありました。そのポケットの中の5発の実弾だけが一番の親友。命乞いはしたくないです。最後は自分の手で決めたいですから」