『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、最高裁判事を内閣が任命する前に、米国のように国会で公聴会を開く仕組みを導入することを提案する。
(この記事は、7月11日発売の『週刊プレイボーイ30・31号』に掲載されたものです)
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昨年1月に起きた米連邦議会にトランプ支持者が乱入した事件を調べる下院特別委員会の一連の公聴会が行なわれた。
そこで、トランプ氏が権力の座にとどまろうと、司法省に「選挙に不正があったと言え」と圧力をかけたことや、暴徒による議会襲撃の計画を知りながら議会への行進を呼びかけて群衆を扇動したことなどの証言があった。これを受けて司法省がトランプ氏を訴追するかどうかが注目されている。
ただ、訴追されても最終的に無罪になるとの観測が少なくない。9人の最高裁判事のうち、トランプ氏が任命した裁判官を含め保守色の強い判事が6人を占め、下級審で有罪となっても最高裁では「トランプ無罪」となる可能性が高いからだ。
米最高裁は最近、人工妊娠中絶の権利を否定したり、州による銃規制を違憲としたり、脱炭素のための連邦政府による規制権限を制限するなど、トランプ派が喜ぶ判断を次々に打ち出しているが、いずれもこの6判事主導によるものだ。
米最高裁判事は終身制で、死亡か辞任以外の入れ替えがないため、今後も米最高裁の保守的傾向が続くことは確実で、24年の大統領選で再選を狙うトランプ氏にとっては心強い味方といえる。
これと似たことが日本でも起きている。日本の最高裁判事は70歳定年制で交代頻度は米国より高い。そのため、最高裁が政権の影響を受けるリスクは表面的には米国より低い。
ただ、日本の裁判所には「判事は政治からは独立している」という建前があるが、このところ最高裁の判決には政権与党にすり寄ったものが散見される。2011年の福島原発事故の被災者が国と東電に損害賠償を求めた裁判で、「国に責任なし」とした6月17日の最高裁判決はその典型だ。
55ページの判決文で実質的な判断が書かれた部分はわずか4ページ。争点だった津波の予見可能性や長期評価への信頼性に関する判断もない。
「津波が予測より大きく、国の命令で安全対策が取られていたとしても事故は防げなかったので、国に責任はない」という驚きの論理で住民の訴えを退けている。司法が国の肩を持っているとしか思えない粗雑な判決だ。
実は今の最高裁は〝自民色〟の党派性を帯びている。政権交代がまれなこの国では、最高裁判事のほとんどは自民党政権が指名・任命してきたからだ。事実、今の15人の最高裁判事は、安倍内閣が8人、菅内閣が5人、岸田内閣が2人とすべて自民による任命である。今後も政権交代の見通しがないため、自民の影響力は引き続き強いままだ。
特に、安倍元首相は一部保守層に絶大な人気を誇り、党内最大派閥の領袖(りょうしゅう)として次期総裁になる可能性すらある。「森友・加計・桜」疑惑も、最高裁を頂点とする司法が〝忖度(そんたく)〟するので有罪にはならないとさえいわれている。
そこでひとつ提案がある。最高裁判事を内閣が任命する前に、米国のように国会で公聴会を開く仕組みを導入するのだ。
現在、判事の適格性をチェックするのは就任後の衆議院選挙で行なわれる形骸化した国民審査だけ。そうでなく、判事になる前にその人柄、経歴、考え方を聞き、政治から独立した判断ができるかをチェックする。生で厳しく問いただせば、政治への忖度度がわかり、政権も世論を反映した選任をせざるをえなくなるだろう。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中