米海軍攻撃型原潜「バージニア級」ノースカロライナ、全長114.8m排水量7800t。533mm魚雷発射管4筒、トマホークミサイル用垂直発射システムVLS、12基搭載
「週刊プレイボーイ」本誌29号の記事『中国新型空母「福建」vs自衛隊 超リアルシュミレーション!!!』では、日本の専守防衛に於ける対中国空母への抑止力が危機的に低下すると解明していた。

そこで、中国空母に対抗する手段として、海上自衛隊(以下、海自)の潜水艦に限定してシュミレーションを試みた。

その原潜の艦橋部分のアップ、赤サビ出てますが米海軍は構わず使います

海自潜水艦「はやしお」艦長や第二潜水隊司令を歴任した元海将で、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏はこう語る。

「中露北朝鮮以外の民主主義国は全て専守防衛です。『相手が武力行使してきたらそれに対して防衛力を使う』ことを言いますが、日本の専守防衛の定義が悪いのは、その後に『態様も保持する防衛力も必要最小限』にとどめるとされていることです。既にやられてるのですから全力で敵を排除しないと国民は守れませんよね。

一方、相手の軍隊が日本を攻撃しようとするのを、相手の自らの意思によって事前に止めさせるのが抑止力です。

そのためには、例えば中国に対して『あなたの新型空母なんか、直ぐに沈んじゃうけどイイ?』『高いでしょその空母? 費用対効果上は損だよね』と悩ませる防衛力を持つことこそが抑止力になるのです」

現在、就役している中国空母は、「遼寧」「山東」の2隻。海自が有する通常動力型潜水艦の抑止力は十二分なのだろうか。

「中国の空母を沈めることは可能です」

これが空母「福建」に続いて、8-10万トンクラスの中国空母が4~5隻体制になるとどうなるのだろう?

「今、海自の潜水艦は総数22隻で、実際に動くのは15~16隻。すると、空母1隻に対して3隻ずつ待ち受ければ空母5隻までは沈める事は出来ます。

しかし、中国空母がこちらが待ち受けている所にうまく来てくれれば仕留められますが、かわされると通常動力艦だと追いかけられません」

バージニア級発令所、横長TVには潜望鏡からのデジタル映像が映されている

そんな時、待ち受けている海自の通常動力潜水艦の後方に、1隻の原子力潜水艦(以下、原潜)が最後の防衛線にいれば追跡は可能?

「海中で40~50ノットで連続潜水航行できる原潜ならば中国空母を追跡可能ですし、先回りして迎撃も可能です。海自通常動力型潜水艦の艦長をやっていると、常に頭半分は『充電と空気の入れ替えのため、いつスノーケルしようかな...?』などと考えつつ、残りの頭半分で作戦を考えるという状況。これが、電池で動く通常動力型潜水艦の限界なんですよ。

原潜ならば100%、作戦の事を考えられる。原潜は電気、酸素も自由に作れます。エネルギーが無尽蔵ですから」

原潜は一度海に出て潜航開始すれば、乗組員用の食料がある限り潜ったまま。米原潜は3か月潜る。写真は「ロスアンゼルス級」

では、分かりやすい例で考えてみたい。

宮古海峡を含め、先島諸島辺りに海自の通常動力型(電池)潜水艦が待ち伏せていると、中国空母艦隊は台湾の南のバシー海峡から来た。その時、3隻の通常動力型潜水艦の後方、最終防衛ラインに海自の原潜が一隻いたとすれば、潜航したまま40~50ノットで中国空母に急行。真正面からの迎撃、側面から奇襲、さらに後方からの追尾が可能となりますか?

「なります。だから、原潜は3隻保有して1隻のみ常に海にいる状態で十分。価格が高いと言われますが、10万トン空母よりは安い。乗組員も原潜一隻に100人、計三隻300人で足ります。正規空母は1隻5~6,000人、3隻で1万8,000人乗組員が必要。今の海自の総員が4万5,000人ですから人数的に難しい。ただ、原潜で難しいのは原子力機関員の養成に1年以上かかる。戦力化するには少なくとも3年かかります」

海自電池式潜水艦は静粛性では米海軍原潜に勝るが、常に充電を考えないとならない

中国大型空母5~6隻体制は2030年代前半に整うとのことなので、抑止力を培う準備はまだまだ間に合う。

「原潜だと言うだけで相手のビビり方が半端じゃなくなるはずです。『港の周辺に出没しているかも』と情報を流すだけで、通常動力型潜水艦でもビビるでしょうが、『今そこに原潜がいるかもしれない』となると、空母だけでなく他の軍艦も怖くて港から出られなくなる。1982年のフォークランド紛争の時に、英海軍の原潜が怖いアルゼンチン海軍は港から出られなかった。原潜があればその存在だけで、中国海軍から日本を守ることができるのです」

原潜があればどんな作戦が考えられるのだろうか。

「先ほども申したように、充電のことを考えなくていいから、思考の100%を使って誰も想像しないような作戦を考えられますよ。たとえば、中国の軍港から空母が出航した時から既に近くにいて、深い海域に入ったら中国空母の艦底真下にピタリと付けて、一緒に航行しつつ誰も気づかないうちに撃沈するとか。水上部隊にとっては、潜水艦は悪魔のような存在だから、嫌われてこそ真価が発揮されます」

6月24日には、中国が4隻目の空母に関しても原子力空母での調達を見送るとの報道があった。

「やはり、中国には海軍力について正しく理解している海軍軍人がいないんですね。通常動力空母が補給艦から燃料を洋上補給している時が原潜には格好の標的。2隻同時にアウトにできます」

もしあれば恐るべし、の原子力潜水艦なのだ。