去る7月19日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻後初の外国訪問先として選んだイランに向かい、ハメネイ最高指導者と会談した。
報道よると、イランはロシア軍に最大300機の無人機を供与し、7月中にはロシア軍兵士の訓練をイランで開始するようだ。
開戦当初はロシア軍を撃退し「ゲームチェンジャー」となったウクライナ軍無人機に対して、新たなチャレンジャーが現れた。
外務省勤務経験のある元・航空自衛隊302飛行隊長の杉山政樹元空将補は、ロシアとイランの今回の動き関してこう語る。
「プーチンがわざわざイランに赴いて首脳外交している事には、戦略的な大きな意味合いがあります。米国に虐げられている国々、イラン、北朝鮮、中国などすべて"敵の敵は味方"であるという戦略です。
ウクライナ侵攻においてアメリカやNATO(北大西洋条約機構)は、ウクライナにはロシアの首都・モスクワを攻撃可能な長距離兵器を提供しない。しかし、ロシア軍はウクライナの首都・キーウを含めて、どこでも自由に攻撃することができる。ロシア軍が狙っているのは、ウクライナの西部と東部。ロシア空軍の有人爆撃機が行けない所に無人機を使って攻撃する意味合いが非常に強くあると思います」
イランがロシアに提供する無人機のレベルはどうなのだろう。現地に何度も赴き、イラン空軍のエアショーを数多く見ているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう言う。
「イランの無人機技術の原点は、1970年代に親米時代に入手した標的用ドローンです。反米政権になってから、米国製をコピー生産したり、自国開発を開始しています。
2016年のエアショーでは何種類もの多用途ドローンが展示されていました。細部で粗削りな所も目につきますが、実際に飛ばせる技術もあります。イランは米軍のRQ170ステルスドローンをアフガン上空で乗っ取り、自国に着陸させたデジタル技術の高さも窺い知れます」
では、無人機に関して世界一の技術を持つ中国のイラン支援はあるのだろうか?
「イランには米国はもとより、どの国にもイニシアチブを取られたくないという傾向があり、特に中国に対しては警戒感を持っています。中国とは武器を共同開発する程、親密でないと思います」(柿谷氏)
イランはイエメンの反政府組織・フーシ派に大量の無人機と弾道ミサイルを渡している。フーシ派はそれらをサウジアラビアへのテロ攻撃に使用し、無人機を使った1000㎞以上先のパイプライン、製油所を攻撃して成功している。
「イランは米国のプレデター、リーパー型の無人機を模倣したコピー機を大量に作っていて、それを実戦で使い、どのくらいの信頼性があるのか見てみたい。
核兵器を開発しているイランは、米国やイスラエルに攻撃される恐れがある。自国製無人機の実戦実験の場としてはそれらの一軍国ではなく、二軍国のウクライナを相手にするのが非常に都合がよいのです」(杉山元空将補)
「フーシ派のアラビア半島での作戦とは異なり、ウクライナでは離陸から目標地点までの距離が短く、作戦時間が伸ばせるのがロシア軍には都合が良いのです。ロシア軍が無人機を運用している隣国のベラルーシにあるホメリ飛行場に先月行きましたが、一本の滑走路に数個飛行隊が展開して、20~30機規模で運用が可能のようでした。だから、このような飛行場からの運用を強化すると思います」(柿谷氏)
どんな無人機作戦が展開されるのだろうか。
「防空するウクライナから見ると嫌なのは、黒海からの巡航ミサイル、ロシア本土からの弾道ミサイル、さらにはロシア西部やベラルーシ南部から、大小さまざまな無人機がさまざまな方向や角度から飛来すること。『どれからどの順番に撃ち落とすべきなのか?』となる。ウクライナ軍の限られた防空能力でロシア軍の陽動作戦に引っ掛かると、すり抜けられる可能性が高くなる。防空戦闘はウクライナ軍にとって厳しくなるのが目に見えています」(杉山元空将補)
では一体、爆撃目標はどこなのだろう?
「弾薬庫や西側から供与された兵器・弾薬の貯蔵庫、そしてハイマース(高機動ロケット砲システム)の発射機とミサイルは特に破壊したい。さらに、軍事顧問団がいるような場所が標的となるでしょう。それから、最近空襲警報が鳴っても市民が避難しなくなった首都・キーウの住民地区を、夜通し不規則に無人機で爆撃すると思われます」(杉山元空将補)
イランの無人機提供により、さらに泥沼化の様相をみせるウクライナ情勢。いったいこの状況はいつまで続くのだろうか...。