去る7月19日、北朝鮮がウクライナ東部での戦争で瓦礫と化した親ロシア派勢力支配地に、外貨稼ぎのために建設労働者を派遣しているとNHKが報じた。この北朝鮮労働者の一件に関して、外務省経験もある元空自空将補の杉山政樹氏が疑問を提示する。
「ロシア軍占領下のウクライナ東部地区に入った北朝鮮労働者は、本当に労働者なのかは分かりませんね。労働者という名の北朝鮮の軍人かもしれません」(杉山元空将補)
最前線で兵力不足に悩むロシア軍は、チェチェン、シリアから兵士を連れてきた実績がある。そんな最中、ロシア最強の民間軍事会社「ワグネル」が、ネットでウクライナ派遣戦闘員の募集をしていた。月給は日本円でひと月52万円、手柄を上げると最高150万円、契約期間は4か月。最大358万円稼げる計算となる。
「これだけ稼げるなら、国家のために外貨を稼ぐ兵士たちが送られるでしょう。実戦経験も積めるということで、派遣される人間の中には現在10万人いると言われる、北の特殊部隊も含まれているかと思われます」(杉山元空将補)
北朝鮮軍最強と言われる特殊部隊だ。半島有事の時に真っ先に38度線を超える部隊である。彼等ならば訓練は不要、すなわち即戦力となる。
北朝鮮では総計10万人の労働者が国外で年間約5億ドルの外貨を稼ぎ、その80%が政府に渡されているという。
ワグネル経由でひとりの兵士が1年働けば年間で最高約1074万円、1000名の派遣で年間107億円稼げる計算となる。5000人の派遣ならば535億円=約7億ドル。いま、10万人の労働者が一年で稼ぐ外貨は約5億ドル。20分の1の人数でそれを凌駕する金額が稼げる計算となる。
果たして「北朝鮮労働者」はどんな作戦に従事するのか。元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補に解説してもらった。
「ロシア軍はウクライナ東部を攻撃するために戦力を投入して押し進めようとしましたが、あともう少しの所でウクライナ軍がハイマース(高機動ロケット砲システム)を手に入れてしまい、ボコボコにやられてしまいました。そうこうしているうちにロシア軍はいま、南部方面に早期に手を打たないと危なくなってきました。
なので、ロシア軍はいち早く、完璧に破壊した東部に北朝鮮労働者を復旧作業員の名目で入れなければなりません」
「復旧工事」の名目の裏に隠された作戦があるらしい。
「ロシア軍は東部地域で占領した地域の守備管理のために兵力を割いています。従来、戦車やBTR(装甲兵員輸送車)に乗って戦う兵員たちが警備兵となっています。ですので、この区域に『復旧工事』の名目で北朝鮮労働者を入れるのです。全員が特殊部隊の隊員でなくても、普段から農耕や土木作業にも熟知している北朝鮮軍の一般部隊の兵士で大丈夫です。
そして、北朝鮮労働者をウクライナ軍から守ると言う名目で、この区域の警備を北朝鮮兵が担当します。すると入れ替わりでロシア軍兵士を再び戦車に乗せて攻撃に使い、数個旅団を南部に増援することが出来ます。南部のウクライナ軍はすぐにロシア軍の守備線を越えそうな勢いなので、北朝鮮労働者という名目の兵隊を早く投入したほうがよいのです」(二見龍元陸将補)
北の兵士の仕事は警備だけではない。
「その警備兵の中に北の選りすぐりの特殊部隊の兵士を混入させます。特殊部隊は潜入・襲撃・破壊だけではなく、収集した情報を高いレベルで評価することが可能です。また、その情報を自軍でどう取り入れ対処すればいいのかまで分析できるのです」
では、どんな情報を集めるのだろうか?
「一般兵だと無理ですが、特殊部隊員は兵士で大尉~少佐レベルの能力を有していますから、警備をしているだけで色々と情報収集が可能です。
ウクライナ東部ではウクライナ軍が、米軍の最新兵器である対戦車兵器『ジャベリン』や自爆ドローンの『スイッチブレード』、最新鋭M777榴弾砲、ハイマースでロシア軍を攻撃した戦場を偵察できます。つまり、『ロシア軍はこのような攻撃のやり方、または防御の仕方だから大きな損害を受けている』と言う事が分かります。
また東部では、ロシア軍が攻撃に使った旧ソ連製の武器が、どの程度の射程と破壊力があるのかが一目瞭然です。ですので、北朝鮮が自国で有する旧ソ連製火器がちゃんと戦えるレベルなのかどうかが分かるのです。
得た情報と知見は朝鮮半島有事の際、38度線北側で米軍最新兵器からどのように自国を防御すればいいのか、また、北の持つ兵器でどう有効的に攻撃すればいいのかに応用されます」(二見龍元陸将補)
今、最新の戦争テクを、北の労働者に混じったエリート兵の特殊部隊隊員が全て偵察し、持ち帰り、38度線からの攻撃防御に転用する可能性がある、ということになる。北朝鮮ににとってはウクライナへの参戦は、まさに得難き好機なのかもしれない。