8月9日、ウクライナ中部の町に80発のロケット弾が撃ち込まれ、24人が死傷した。ウクライナ側からの情報によれば、そのロケット弾は川を挟んだ対岸のサポリージャ原発から発射されたという。
この攻撃がロシア軍の多連装ロケットシステム「9K58スメルチ」だと仮定すると、その射程は70kmとなり、多連装ロケット砲は原発という核の盾の内側にあることになる。国際法では原発など危険な力を内蔵する施設への攻撃は禁じられているが、それは原発を火砲で攻撃すると簡単に制御不能になり、メルトダウンによって大量の放射能物質が撒き散らされる惨事となるからである。
ミサイルやロケット弾を撃ち込むのが最も危険な場所である原発を、多連装ロケットシステムの使用により難攻不落の要塞にしてしまったロシア軍。このロシアの作戦に関して、元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補はこう話す。
「南部地域とサポリージャ一帯は両軍の決戦場になりますが、この攻撃のやり方は非常に品が無く、絶対にやってはいけないことだと言いたいですね。IAEA(国際原子力機関)の関与に期待します」
では現実問題として、原発を要塞にして立て籠もるロシア軍をいったいどう排除すべきなのか。二見龍元陸将補にその作戦を立案していただいた。
「まず、ロシア軍の兵隊は500名、装輪装甲車・BTRが50台。一個BTG(大隊戦術群)います。しかし、砲兵部隊主体の変則的な編成で、原発内外を警備する歩兵は三個中隊300名。ロシア軍が原発事故を発生させる意図が出て来た場合は速やかに特殊部隊を入れて掃討しなければなりませんが、敵が三個歩兵中隊は多いです。この中隊をまず何とかすべきです」
原発要塞の弱点は、原発に通じる道路が警備上の都合で一本しかない点だ。
「その弱点を抑え込んでしまうのです。基本的にはまず、原発の柵外の部隊から潰していきます。戦略兵器・ハイマース(高機動ロケット砲システム)が4基あれば十分です」
ハイマースで原発柵外にあるロケット弾集積庫、兵員用水食糧集積地、車両用燃料庫を全部、精密誘導砲撃で潰すのだ。
「次は原発を川の中洲のように孤立させます。原発への補給線となっている一本道を砲撃。橋梁はハイマースで破壊。道路とそこを走る車両は155mm榴弾砲M777で潰します。さらに撃ち漏らした敵の車両はゴーグルを用いて操縦する攻撃自爆ドローンで破壊。敵兵はスナイパーでどんどんと片付けます」
次は、すでに入念に偵察済みの本丸の原発柵内に攻撃開始。
「狙う場所は、原子炉の周りに配置された警戒部隊、砲兵大隊本部、射撃指揮統制所です。多連装ロケットシステムは、原子炉から離れた敷地に配置していますから、砲撃はやり易いです。攻撃開始は真夜中の12時。ゼロダークから暗闇の中でオーバーキルに近いだけの様々な火砲、攻撃手段を撃ち込み、三個歩兵中隊を綺麗にします」
陸上自衛隊のお得意の『弾ちゃーく、今』のナレーションで異なる火砲が同時弾着する撃ち方だ。
「HIMARS、155mm榴弾砲M777、攻撃自爆ドローンなど、同時弾着で行きます。後に残った歩兵は、攻撃自爆ドローンとスナイパーでやっていけばいいのです」
残るは原子炉建屋。そこで事故発生させられると、原子炉はメルトダウンし、福島原発の二の舞になる。
「特殊部隊が川から潜入して、建屋の中に入って掃討開始。スナイパーは音を出さないサプレッサーをつけて、敵がどこから来るか分からないようにします。敵兵が多くいる所にはナイトゴーグルを装着したドローン操縦兵が自爆ドローンを突入させる。後は、建屋の中をCQB(近接戦闘専門)チームがサプレッサー付きの小銃を使って戦います。音がしないので、敵兵は何が起こっているか分からないうちに全員、掃討されます」
明け方、原発にいた一個BTG500人は綺麗に一掃。
「原発を制圧した後、周辺にいるロシア軍の別のBTGが複数来ると奪還されます。だから、原発奪還はへルソンからサポリージャを攻撃する大きな動きの中の一つでなければならないのです」
決戦はゼロダーク。真夜中に始まる。