F-2戦闘機 米国のF-16を日本の地理的な特性に合わせて日米共同開発した戦闘機。最大速度はマッハ約2.0。空対空レーダーミサイル、空対艦ミサイルなどを装備 F-2戦闘機 米国のF-16を日本の地理的な特性に合わせて日米共同開発した戦闘機。最大速度はマッハ約2.0。空対空レーダーミサイル、空対艦ミサイルなどを装備

全世界で大ヒット中の映画『トップガン マーヴェリック』。その影響で今、戦闘機パイロットに憧れる人が増えているという。そこで「戦闘機に乗るにはどんな訓練が必要?」「適性は?」などを元自衛官に聞いた! 君もトム・クルーズのようになれる!?

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■日本のトップガンも敵役になって指導する

全世界で1600億円を超える興行収入を記録したトム・クルーズ主演の映画『トップガン マーヴェリック』。映画だけでなく、主人公が着ているMA-1ジャケットやパイロットシャツもはやっているとか...... 全世界で1600億円を超える興行収入を記録したトム・クルーズ主演の映画『トップガン マーヴェリック』。映画だけでなく、主人公が着ているMA-1ジャケットやパイロットシャツもはやっているとか......

全世界での興行収入が1600億円を超え、パラマウント・ピクチャーズ歴代最高を記録したトム・クルーズ主演の映画『トップガン マーヴェリック』。この作品を見て「戦闘機のパイロットってカッコいいな」と憧れた人も多いだろう。

そこで、「日本にトップガンのような組織はあるのか?」「日本で戦闘機パイロットになるにはどういう道があるのか?」「戦闘機パイロットは映画のようにモテるのか?」などを『熱血!〝タイガー〟のファントム物語』(イカロス出版)の著者で、元F-4パイロットの戸田眞一郎氏(元1等空佐)、そしてジャーナリストの照井資規(てるい・もとき)氏(元2等陸尉)に教えてもらった。

――早速ですが、日本に〝トップガン〟のような組織はあるのですか?

「あります。ひとつは『ファイター・ウェポン・スクール』という戦技課程です。日本全国から選(え)りすぐりのパイロットを集めて、数ヵ月間、高度な戦技や戦法を訓練します。また、新しい戦技や戦法の研究や開発もします。

もうひとつが、仮想敵を模擬して教導する『アグレッサー部隊(飛行教導群)』。全国の戦闘機部隊などを回って敵機を演じ、実践的な空中戦の訓練指導をします。アグレッサー部隊のパイロットには突出した戦闘技量を持つ隊員しかなれません」(戸田氏)

「アグレッサー部隊は、主に15年以上の戦闘機の操縦経験がある高級操縦士で、20名程度といわれています。日本最強の戦闘機部隊ですよ」(照井氏)

――では、そんな戦闘機パイロットには、どのようにしてなるのですか?

「航空自衛隊の戦闘機パイロットになるには、3つの道があります。ひとつは高校を卒業して航空学生として自衛隊に入る道。もうひとつが防衛大学校から自衛隊の幹部候補生11学校へ進む道。最後が一般大学から自衛隊の幹部候補生学校に入る道です。ただ、一番多いのは航空学生からのルートですね。

航空学生になるためには、筆記試験、身体検査、適性検査などをパスしなければいけません。身体検査は一般的なものよりも厳しくて、近距離、中距離、遠距離の視力、夜間視力、視野の広さ、肺活量、血圧なども調べられます。

また、適性検査ではプロペラ機の後席に乗って実際に操縦をします。真っすぐ飛んだり、簡単な旋回をしたりして、前席の試験官がパイロットに向くかどうかを判断します」(戸田氏)

――といっても、みんな初めて操縦桿を握るんですよね。

「そうです。普通は『真っすぐ飛んで』と言われても、なかなか真っすぐ飛べません。みんなうまくいかないんです。でも、実際に飛行しているときに冷静でいられるか。例えば、機体がひっくり返ってしまったときにどう対応するかなどを見るわけです」(戸田氏)

――じゃあ、そこで落ちる人も多いわけですよね。

「多いですね。合格者は志願者のうち30~40人にひとりくらいだと聞いています。そこが戦闘機パイロットになるための入り口で、航空学生課程を修了すると次は飛行準備課程、飛行操縦課程に進みます」(戸田氏)

T-7初等練習機 航空自衛隊のパイロット養成を目的として開発された初等練習機(プロペラ機)。旧練習機(T-3)から騒音低減が図られ、コックピットに冷房装置を搭載 T-7初等練習機 航空自衛隊のパイロット養成を目的として開発された初等練習機(プロペラ機)。旧練習機(T-3)から騒音低減が図られ、コックピットに冷房装置を搭載

――そこでは何をするんですか?

「飛行操縦課程はプロペラ機(T-7)からスタートしますが、そこでも毎日が試験の連続です。教官による操縦チェックがあり、ブルー(優)、グリーン(良)、イエロー(可)、ピンク(不可)とランク分けされて評価されます。

そして、ピンクを2回もらうとその人物に将来性があるかどうかの審査にかけられます。そこでもまたピンクをもらうと最終試験です。通常、ここまできた学生が再び訓練を始めることはありません。訓練はほぼ毎日行なっているので、1週間で仲間がいなくなることもあります」(戸田氏)

T-4中等練習機 キャノピー(操縦席の天蓋)破砕方式の脱出装置や機上酸素発生装置などを備えた純国産の中等練習機(ジェット機)。最大速度はマッハ約0.9 T-4中等練習機 キャノピー(操縦席の天蓋)破砕方式の脱出装置や機上酸素発生装置などを備えた純国産の中等練習機(ジェット機)。最大速度はマッハ約0.9

――厳しいですね。プロペラ機の次は?

「ジェット練習機(T-4)の訓練です。プロペラ機とジェット練習機とではスピードが3、4倍くらい違います。そして、例えばプロペラ機だったら天気のいい日だけ飛んでいたけれども、ジェット機になると雲の中も飛ぶことになる。すると計器飛行ができなくてはいけないなど、要求されるスキルも高くなっていきます。ここでもふるいにかけられます」(戸田氏)

「今、航空自衛隊の練習用のジェット機はT-4を使っています。ブルーインパルスで使っている機種です。だから、曲芸飛行ができる。それで、みっちり練習します」(照井氏)

「そして、このジェット練習機の基本操縦課程を終えると、一人前のパイロットとして『ウイングマーク』と呼ばれる航空自衛隊の徽章(きしょう)をもらえるわけです。ここで事業用操縦士という国家資格も取得します」(戸田氏)

F-15戦闘機 航空自衛隊の主力戦闘機として、全国に約200機が配備。最大速度はマッハ約2.5。導入から40年以上たつが、現在でもトップクラスの実力を持っている F-15戦闘機 航空自衛隊の主力戦闘機として、全国に約200機が配備。最大速度はマッハ約2.5。導入から40年以上たつが、現在でもトップクラスの実力を持っている

――でも、それで終わりではなくて、戦闘機パイロットになるにはさらに訓練があるわけですよね。

「はい。F-2やF-15などの戦闘機に乗って訓練を重ねます。もちろん、ここでも戦闘機の訓練に耐えられない人も出てきます。そういう人が輸送機や救難機にいく場合もあります。通常、一人前の戦闘機パイロットになるためには10年近くの月日が必要とされています」(戸田氏)

そして、戦闘機の訓練を終えたパイロットの、さらにひと握りの人間が冒頭の〝日本のトップガン〟になれるというわけだ。

F-35戦闘機 F-4の後継機として導入された最新の戦闘機。最大速度はマッハ約1.6とF-15より遅いが、高いステルス性能があり、第5世代ジェット戦闘機と呼ばれる F-35戦闘機 F-4の後継機として導入された最新の戦闘機。最大速度はマッハ約1.6とF-15より遅いが、高いステルス性能があり、第5世代ジェット戦闘機と呼ばれる

■戦闘機パイロットは女性隊員にモテるのか?

――ちなみに、戦闘機パイロットになるための適性には、どんなものがありますか。

「戦闘機というのは、基本的に飛行が不安定なんです。不安定でないとあれだけ急な旋回やクルクル回るような動きはできません。そんな不安定な飛行機を自在に操れることが重要です。

そのためには、自分が今、上昇しているのか、裏返って飛んでいるのか、空のどの位置にいるのかが瞬時にわからなくてはいけません。さらに、時速1000キロ以上で飛んでいるため、1秒後の未来位置予測もできる必要があります。空間把握能力に優れていなければならないのです」(照井氏)

――じゃあ、戦闘機の適性がない人が、輸送機や救難機のパイロットになるのですか?

「というか、人には特性があります。飛行機のような固定翼には向いていないけれども、ヘリコプターのような回転翼にはものすごい適性がある人はいます。

回転翼の適性とは、操縦桿を持ったまま、右を見ても左を見ても持った手の位置が変わらない人です。逆に操縦桿を素早く動かせる人は戦闘機に向いているといえるでしょう。

また、固定翼でも例えば、嵐の中を何時間も安定して飛ばせる人は輸送機パイロットに向いています。なんのパイロットになるかは適性の問題です」(照井氏)

――最後に、戦闘機パイロットは映画のトム・クルーズのようにモテますか?

「私は、それを航空自衛隊の女性隊員に聞いたことがあります。答えは『人による』でした(笑)。戦闘機パイロットはカッコいいので、女性の心をつかむには下駄を履かせてもらっている部分はあると思います。

でも、結婚適齢期の女性には地上勤務の男性のほうがモテたりするんです。命に関わる仕事だから敬遠しがちというのもあるのかもしれません。

ただ、給料は操縦士手当がつくので、一般の自衛官とは1.5倍くらい差があるんじゃないでしょうか」(照井氏)

映画の大ヒットで一躍、注目を浴びた戦闘機パイロット。日本では戦闘することはないが、日々の訓練や領空侵犯時のスクランブル発進のために待機するなどの任務をこなしている。