8月5日、ロシア誌『国防』のイゴール・コロチェンコ編集長(ロシア陸軍予備役大佐)がロシアのテレビ出演時に『北朝鮮軍10万人がウクライナに来て紛争に参加する準備ができている』と話した、とニューヨークポストが伝えた。
元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補はこの報道に接し、戦況を次のように分析する。
「ロシア軍は今、東部戦線から兵力を引き剝がし、南部戦線に20個BTG(大隊戦術群)、兵力12,000名を急送しようとしています。戦線が崩壊する兆候がロシア軍にありますから、この北朝鮮軍10万人は絶対に欲しい兵力。来れば、ロシア軍は相当な数のBTGを東部から引き剥がし、南部に出せるので凄い戦力となります」
第二次世界大戦で大日本帝国陸軍のシベリア北進は無いと知ったスターリンは、極東にあった18個師団のソ連軍をシベリア鉄道で急送し、対ドイツ戦に投入。最終的に大祖国戦争に勝利した。その時と同じように北の兵士はシベリア鉄道に飛び乗り、ウクライナまでやって来るのであろうか...?
「10万人の戦力を投入しすべて交代するには、1ヵ月ぐらいはかかります。足りなくなれば北朝鮮へ更なる増援を要請します。しかし、これは大きな影響を与えることになります。この10万人で『戦争の方程式』が変わるからです」
どう変わるのだろうか。
「『ロシア軍が10万人投入するのなら、NATO軍のウクライナ投入は可能』となります。基本はロシアvsウクライナの戦争ですから、それ以外に拡がらないように、NATO軍はポーランド国境線に部隊をおいて抑止をかけています。NATO軍が構築する『戦争の方程式』とは、米軍などから新装備はどんどん入れて、ウクライナ人の兵員教育はイギリスなどのNATO諸国で行うというものです。
そこにロシア軍が他国の正規軍を持ってくるならば、『それはまた違う次の拡大フェーズ』になります」
ロシア軍はいままでに、チェチェンから強力な義勇兵の特殊部隊を、シリアから化学戦に長けた義勇兵を投入している。
「その義勇兵が来たということと違って、今回は完全に本格的な正規軍を入れる事になりますから」
兵力10万人に対抗するNATO軍とは、どのような編成になるのだろうか? NATO演習取材を何度も経験しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう説明する。
「NATO即応部隊・NRFは、有事の際に加盟国の全会一致で派遣が決まり、陸海空部隊を15日以内に緊急展開する役割があります。陸軍3個師団12000名と化学部隊、特殊部隊を空軍輸送機、海軍揚陸艦で輸送し、イタリア、スペインは水陸両用装甲戦闘車AAV7で上陸も可能です。これに続いて、NATO各国が部隊を追加派遣し、10万人を超える陸軍兵力を長期に渡って展開可能です。また、NRF海軍に対しても各国海軍が増強部隊を派遣。米英仏伊スペインは空母部隊を派遣します」
計5個NATO空母打撃群の破壊力は凄まじい。シベリア鉄道でやってくる北朝鮮軍は歩兵が主体で、NATO軍に対し武器は軍用小銃と機関銃、対戦車ロケット砲と圧倒的に弱い。
国家存亡の危機には核兵器を使うと公言しているロシアのプーチン大統領は核を使うのだろうか?
「プーチンが核を使えば、NATO側も核兵器の使用を排除することはできないでしょう。ロシア、NATOともに戦争の枠組みのバランスを崩すようなことがあれば、戦争はエスカレートしていく可能性があります」(二見元陸将補)
2016年に米国国家安全保障会議で行なわれたシミュレーションでは、バルト三国にロシア軍が侵攻し限定的な核攻撃を行なった場合、NATOの核による反撃先は、全面核戦争を避けるためにベラルーシとなっていた。もしそうなった場合、今回はどこに核兵器は撃ち込まれるのか...。
そんな核戦争の心配をしている最中の8月11日、ロシアの外務省情報出版局のネチャーエフ副局長が北朝鮮のウクライナ派兵を全否定した、とスプートニク通信が報じた。
「いわゆる"アドバルーン"で、どのように世界が反応するか見ているわけです。そのための北朝鮮軍10万人派兵です」
NATO軍が参戦するかもしれないとの情報が入ったのかもしれない。
「北朝鮮軍の派兵をやるのであれば連隊、次いで旅団で、少しずつ積み上げていきますね。それで、何人まで投入したらNATO軍が入ってくるのかを見極めながらやる。いい所、出せて一個師団、1万人ぐらいかと思います。『その北朝鮮一個師団で東部地区の警備と復興支援をやっていますよ』程度に抑えてないとバランスが崩れ、おそらくNATO軍が入ってくるでしょう」
核戦争への危険性をつねにはらんでいるのが、今回のウクライナ戦争なのだ。