フォトジャーナリスト・柿谷哲也氏が海外取材を終え、無事日本に帰国したタイミングで一本のメールが入った。発信元は、イギリスのロンドンにある「ジェーン海軍年鑑」の編集者だった。
「この軍艦は日本で使っていた船か?」
メールに添付されていたのが、この写真だ。勇ましい「イラン革命防衛隊」の旗が海風ではためき、ペルシャ湾で米海軍相手に大暴れしている船隊の船だ。
柿谷氏は、自分が撮った全ての船の写真を覚えている。特にこの船影はすぐにわかったという。
「私の地元、横浜にいた船です。2000年(平成12年)に竣工し、横浜税関に配備されました。2008年(平成20年)4月に横浜税関から東京税関新潟支所に移管し、2020年(令和2年)に退役。その後、民間企業に売却されたようです。日本製の中古船は手入れが行き届き、頑丈で故障しにくいので人気があって、アフリカ、中東で使われています。ただ、ここまで勇ましい姿になった例はないでしょう」
その"魔改造"っぷりがカッコいいのだ。
横浜税関船時代は、法執行機関特有の白い船体に、青色で『つばさ』。その書体は美しい。舷側には、青の制服に白い手袋に制帽の税関職員が、敬礼して並ぶ。武装していても38口径回転式拳銃だ。
一方、この魔改造されたイラン船。船体は海軍戦闘色の灰色に塗られ、後部は黒。『P313 11』といかめしい。ブリッジ後方には「イラン革命防衛隊」の勇ましい隊旗が描かれている。オレンジ色の救命浮き輪はもしかしたら、同じものを使っているかもしれない。
「艤装では横浜税関所属当時の赤外線監視装置は備わっていません。おそらく売却時には含まれなかったのでしょう。一方で、探照灯、日本製の対水上レーダー、GPSアンテナなどは新潟支所時代と同じようです」
イランは使える装備は使っている。なんといっても横浜税関監視艇は非武装だが、ただ、イラン革命防衛隊ミサイル艇は武装しているのだ。
「艦首には機関銃1門が見えますが、連装機銃にも見えます」
それを連射しながら敵艦艇に接近する。そして、船内から髭面の強面の革命防衛隊員がAKM自動小銃を構えて出てくるのだ。敬礼などしない。フルオートで撃ってくる。停船しなければ北朝鮮の不審船と同じく、対戦車ロケット砲RPG7の出番だ。近接戦の他、遠距離戦もこのイラン魔改造船であれば可能だ。
「後部甲板の4発の対艦ミサイルは、米軍とておいそれと手を出せないシロモノです。キャニスターの外観から最大射程35㎞、天竜6(TL-6)のイランライセンス版であるNasr-1(ナサール1)の様です。しかし、革命防衛隊のミサイル艇は中国のC-802をライセンスしたとされる『ヌール』対艦ミサイルも搭載しており、このP313-11も可能性があります。
ニュースでの高官へのインタビューでは、ミサイルの射程は180㎞と語っているので、鹰击-83(C-801)をライセンスしたNoor(ヌール)、もしくはそのイラン独自アップグレード版であるGhader(ガダール)を搭載することも可能とみられます」
対艦ミサイルは最大180km先まで飛ぶという重武装だ。敵艦艇がRPG7から逃げたとしても、このミサイルが追いかけてくる。このイラン魔改造船は、9月5日にペルシャ湾デビューしたという。
「イランの各メディアによると、同日にバンダル・アッバスにて革命防衛隊の就役式典があり、この魔改造船が高速ミサイル艇『シャヒード・ルーヒ』(P313 11)として就役。艦名のシャヒード・ルーヒは、革命防衛隊海兵隊、イマーム・サジャド旅団に所属しシリアで殉職した、ルーヒ・チョカミ戦闘員の名前から命名されているものと思われます」
祖国のために殉職した戦闘員の名が付けられた高速ミサイル艇『シャヒード・ルーヒ』は、これからペルシャ湾で暴れまわるはずだ。ここ数年では米海軍艦艇に待ち伏せ、高速接近、警備艇や無人艇を拿捕したり、民間タンカーに銃撃したりしている。
この元・横浜税関船の魔改造イラン艇も、やがて対米海軍の急先鋒として戦列に加わるのだろう。