対ロシア戦争で開戦時51機あったウクライナのミグ29は、残存26機。写真:ウクライナ国防省 対ロシア戦争で開戦時51機あったウクライナのミグ29は、残存26機。写真:ウクライナ国防省
ウクライナ軍(以下ウ軍)は自国東部で反撃作戦を敢行し、要衛のハルキウ州イジュームをロシアより奪還した。元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補によれば、ウクライナ軍が次に執るべき選択肢として「空爆」があると言う。

「あとは空軍戦力です。第四次中東戦争の終盤で、イスラエルは圧倒的な航空戦力でアラブ諸国を叩き潰しました。そのような戦闘が今ならば可能です。これから道路は泥濘になり、冬季の兵站輸送は全て鉄道になります。ロシア軍が戦力を輸送する列車、鉄道施設を空爆で徹底的に叩くことができます」

当時、イスラエルの第四次中東戦争終盤の航空兵力は約250機。戦場は異なるものの、果たしてウクライナ空軍に圧倒的な航空戦力があるのか? 各国の空軍事情に詳しいフォトジャーナリスト柿谷哲也氏に聞いた。

「英国航空専門誌『FLIGHT』誌などによると、当初51機あったミグ29戦闘機の残存は26機、32機あったSu27は残存27機、対地攻撃可能の戦闘爆撃機はSu24が全機消失、Su25は残存2機で、作戦機は合計55機です」

ウクライナ空軍Su27は開戦時32機あったが、残存27機、徹底的に温存されているようだ。写真:柿谷哲也 ウクライナ空軍Su27は開戦時32機あったが、残存27機、徹底的に温存されているようだ。写真:柿谷哲也

圧倒的な航空戦力とはいかないものの、東欧諸国からの供与もあるという。

「スロバキア空軍で用途廃棄となったミグ29戦闘機12機は確実に手に入りそうですが、ポーランド空軍のミグ29が23機、Su22が18機は、2028年に韓国からFA50を48機購入した後の供与となるので、ウクライナ空軍に引き渡すのはそれ以降になるでしょう。

ですので、東欧からの供与による戦爆連合編隊は無理です。ウクライナ空軍残存機と、間もなく到着するスロバキアからのミグ29で攻撃するしかないのです。

しかし、今すぐに可能な空爆作戦を立案すると仮定するならば、地対空ミサイル陣地に守られた鉄道拠点1カ所の空爆ならば、次の編成が可能になります」(柿谷氏)

今、ウクライナ空軍の対レーダーハームミサイルは、ミグ29のコクピットから事前に分かったロシア軍対空レーダーのGPS位置情報を伝達されて飛んで行く。ハームミサイルを恐れたロシアは、レーダーで敵機襲来後に停波する戦術に変更。しかしハームミサイルは初期の位置情報を頼りに突っ込む。しかし、ロシア軍がレーダーを移動させていれば野原に着弾し、外れとなる。写真は米海軍が運用するハームミサイル。写真:柿谷哲也 今、ウクライナ空軍の対レーダーハームミサイルは、ミグ29のコクピットから事前に分かったロシア軍対空レーダーのGPS位置情報を伝達されて飛んで行く。ハームミサイルを恐れたロシアは、レーダーで敵機襲来後に停波する戦術に変更。しかしハームミサイルは初期の位置情報を頼りに突っ込む。しかし、ロシア軍がレーダーを移動させていれば野原に着弾し、外れとなる。写真は米海軍が運用するハームミサイル。写真:柿谷哲也

・先陣部隊 対レーダーミサイルハーム搭載ミグ29×2機
・爆撃隊 ロケット弾および通常爆弾搭載ミグ29またはSu27×2機
・護衛機 Su27×4機
・予備爆撃隊 ミグ29または、Su27×2機
・予備爆撃隊の護衛機 ミグ29またはSu27×2機

計12機編成の戦爆隊だ。ミグ29とSu27の残存機計53機により、3個爆撃隊を編成可能だ。元空自302飛行隊隊長の杉山政樹元空将補がこう解説する。

「ウクライナ空軍の損耗状況を見ると、対地攻撃機Su25を15機失い残りが2機と、地上攻撃の壮烈さが分かります。現在のウクライナ空軍が保有する米国製対レーダーミサイル・ハームミサイルは、命中する確率が約50%程度の運用能力です。だから、爆撃するストライクパッケージの編成は、対空レーダーを潰すシード能力が整っていないので無理です。

無理を押してやるならば無人機TB2を囮(おとり)として飛ばし、ロシア軍が地対空ミサイルで反応すれば、そこを後続のミグ29からハームミサイルを撃ち、上空の無人偵察機・スキャンイーグルで潰せたかどうか判定。潰していれば、超低空に残っているSu25の2機で爆撃。それらがやられればミグ29を2機飛ばす。やれない事はないでしょう」(杉山元空将補)

いま、ウクライナ空軍のハームミサイルは、ロシア軍地対空ミサイルとセットで使われる対空レーダーを100%、破壊不可能になっている。写真は9K37ブーク地対空ミサイル。写真:柿谷哲也 いま、ウクライナ空軍のハームミサイルは、ロシア軍地対空ミサイルとセットで使われる対空レーダーを100%、破壊不可能になっている。写真は9K37ブーク地対空ミサイル。写真:柿谷哲也

ロシアは9月23日より、占領した東南部各州で住民投票を開始した。その結果により、親ロシア各州を自国領土に編入する手続きを取ろうとしており、ルガンスク州では9月28日にはその結果が発表される。
 
となると、ロシア軍占領地は全てロシア領となり、米国やNATO(北大西洋条約機構)が決めた暗黙のルール"ウクライナ軍はロシア領を攻撃しない"に則り、そこを攻撃できなくなる。すると、ウクライナ政府が行動を起こすタイミングも「いましかない」と考える可能性がある。

「米国とNATOは水面下でウクライナを抑えていると思いますが、言う事を聞かないケースも考えられます。その場合、今の組織的な航空戦闘では逐次投入はせず、一気に攻勢をかけます。ウクライナ空軍は温存していた全機を出します」(杉山元空将補)

スロバキアで退役した12機のミグ29は、対レーダーミサイル・ハームを搭載するといわれ、ロシア軍のレーダー波に反応して、命中率が向上可能となる。写真:柿谷哲也 スロバキアで退役した12機のミグ29は、対レーダーミサイル・ハームを搭載するといわれ、ロシア軍のレーダー波に反応して、命中率が向上可能となる。写真:柿谷哲也

ミグ29にハームミサイルを搭載し撃ちまくる。続いて、爆装したミグ29が爆撃開始。その上空を空対空ミサイル搭載のSu27全機が護衛機として飛ぶという「全力空爆」だ。 

何故ここに来てプーチン大統領は、ロシア軍占領地域を自国領土にしようとしているのか。そこをウクライナ軍が攻撃すればNATO軍からの攻撃と見なし、その報復として「首都・ロンドンへの核攻撃はあり得る」とプーチンの元側近が英国BBC発言、脅しをかけている。

占領地域の自国領土化を急ぐロシアに対して、ウクライナは不完全なハームミサイルを使用して、残存のミグ29で重要目標を空爆しないとならない。写真:ウクライナ国防省 占領地域の自国領土化を急ぐロシアに対して、ウクライナは不完全なハームミサイルを使用して、残存のミグ29で重要目標を空爆しないとならない。写真:ウクライナ国防省

「ウクライナ軍の反撃でロシア空軍は何もできず、ウクライナ空軍が対空レーダーを潰すシード能力を手に入れ、組織戦闘が可能になり、明らかに強くなっているからです。

このままでは東部を確保するのも難しい戦況となっているロシア軍は、"ウクライナ軍はロシア領を攻撃してはならない"、このルールを逆利用して政治的反撃を仕掛けてきました。ウクライナ軍はいま、ロシア領になった被占領地を攻撃するか悩んでいることでしょう」(杉山元空将補)