ここ数年、兵器市場で急激に売り上げをアップさせているという韓国。2014年に約5000億円だった兵器輸出が、21年には約9500億円と激増! さらに今年も大型契約を連発だという。
なぜ、韓国兵器がブレイクしたのか? スペックからビジネス展開まで、陸上自衛隊元幹部でジャーナリストの照井資規(てるい・もとき)さんに解説してもらいます。
■もはや兵器輸出大国! 韓国の勢いが止まらない
――今年に入ってからも韓国兵器が爆売れ中とか?
照井 今年1月にアラブ首長国連邦へのミサイル迎撃システムの販売が決定しました。これだけで約4000億円の契約。そして7月27日にはポーランドとの契約を発表。その内容は、K2戦車を180台、K9自走砲を648台。さらにFA-50戦闘攻撃機を48機という、約1兆円を超える大型契約です。
今後、数年間の各種アップデート、弾薬・砲弾の販売を含めると、総額で2兆円を超える規模となるでしょう。これまで韓国は兵器市場のシェアが8位でしたが、今後はアメリカ、ロシア、フランス、中国に続いてベスト5に入るほどの勢いです。
――この大ブレイクには、ウクライナ戦争の影響もあったりするんですか?
照井 大いに影響しています。ポーランドは隣国のウクライナへ戦車や自走砲の兵器供与を行ない、その代替として韓国兵器を採用しました。そもそもポーランドは戦車や自走砲を活用した戦術に長(た)けた国で、それこそウクライナ軍の戦車や自走砲部隊はポーランドで訓練を行なっているほどです。
そこが大型契約をしたことで韓国兵器に対する評価はさらに上がり、北欧や旧東側諸国も韓国兵器の新規・追加購入を検討し始めています。ある意味、韓国はウクライナ戦争での"裏戦勝国"と言っても過言ではありません。
――そんな韓国兵器で最注目のアイテムは?
照井 14年に韓国軍が採用した、K2戦車です。価格は、アメリカやドイツ製の戦車の5分の1程度の一台8000万円前後です。
――それ、完全に"安かろう悪かろう"フラグですよね?
照井 確かに、K2戦車の開発当初は、各国から"ポンコツ兵器"という扱いでした。まず韓国は、エンジンとトランスミッションで構成される戦車の動力源である「パワーパック」を自国生産しました。しかし、これが走行すらままならない性能で、戦車に最も重要な加速力がなく、格好の標的になるレベルでした。
――なぜ、そこから注目兵器になったんですか?
照井 パワーパックの自国生産をいったん停止し、ドイツ製のパワーパックを導入。これで一気に走行性能が向上しました。この他国にはない柔軟な方向転換が韓国の兵器開発の強い部分なのです。そもそも韓国は米軍の整備拠点として機能しており、兵器に関する技術力は東アジアでナンバーワンです。
その後、パワーパックのエンジン部分の自国開発に成功。エンジンは韓国製、トランスミッションはドイツ製という混成パワーパックを完成させました。実は、この混成パワーパックだけでもトルコ軍に採用され、ビジネスとして成立しているのです。
――K2戦車は攻撃力も優秀なんですか?
照井 はい。主砲は各国で採用される120㎜砲を装備し、戦術データリンクによって、誘導ミサイルや自走砲と連携した攻撃が可能。また、韓国は軍事面でもハイテク技術に強く、OSのアップデートを頻繁に行ない、その攻撃精度を常に向上させています。そして、何よりK2戦車が優れているのは拡張性と汎用(はんよう)性です。
――具体的にどのような部分が優れているのですか?
照井 私はK2戦車に乗車した経験がありますが、車体内部がとにかく余裕を持った設計です。例えば、新型コンピューターを搭載するスペース、その配線用スペースなど、後々のアップデートが考慮されている。
武装も、ドローン発射装置や、RWSといった無人射撃装置を容易に追加でき、購入国が独自のカスタマイズを行なえます。そして、K2戦車が売れると、ドローン発射装置やRWSを製造するアメリカも儲かり、兵器市場での貿易摩擦も生じません。
――いろいろな意味で有能設計じゃないですか! K9自走砲も相当な性能?
照井 価格は1台約5000万円。各国の主力自走砲の5分の1程度の価格になります。
――完全にコスパ最強フラグじゃないですか!
照井 ただし、各国の主力自走砲に比べ命中精度は2割ほど落ちます。
――それ、微妙すぎ!
照井 私は今年6月にフランスで開催された世界最大の兵器見本市「ユーロサトリ」を取材しましたが、実際に韓国側の売り文句がこれなんです。「アメリカ製に比べて命中精度は2割減だけど、価格は5分の1です」と。
――それ大丈夫なんですか?
照井 ウクライナ戦では戦車や自走砲単体の命中精度よりも、数を増やしての面攻撃が重視されています。それもあって、格安で台数をそろえることが可能な韓国兵器が注目されています。
命中精度が2割減といっても、"最高点じゃないけど、合格点は確実にクリア"という数値で、それは売り手も買い手も理解しています。それもあってK9自走砲は韓国を含めて9ヵ国に採用されています。
――このK9自走砲が注目されるきっかけは?
照井 10年の韓国の延坪(ヨンピョン)島砲撃事件です。このとき、北朝鮮からの砲撃に応戦したのがK9自走砲です。そして16年からインドやフィンランドが購入し、20年にオーストラリアが採用決定したことで、より注目されることになりました。
――オーストラリアの採用はどんな意味があるんですか?
照井 オーストラリアは自国で兵器開発を行ないません。なので、兵器採用の評価試験が厳しく、さらに採用した兵器には多くのアップデートを要求し、性能が格段にアップされます。オーストラリア基準の"お墨付き"をもらったことは、韓国が兵器産業大国の仲間入りしたことを意味します。
また、オーストラリアがK9自走砲と同時に採用したK10装甲弾薬補給車は、戦車や自走砲に全自動で給弾できる車両。現在、戦車や自走砲は大口径ブームで、すでに人力で砲弾の運搬・給弾が不可能になってきました。その作業を自動化する韓国独自のニッチな兵器で、これもベストセラーになるでしょうね。
――韓国の兵器産業は、ニッチな部分を狙うのも上手?
照井 間違いありません。戦闘攻撃機のFA-50は、その名のとおり戦闘機、地上攻撃機として利用できる機体です。さらに、もともとが練習機として開発されたT-50がベースなので、練習機としても活用できる。
ここまで汎用性の高い機体はなく、現在5ヵ国で採用されています。操縦、兵装システムは、多くの国が採用するアメリカのF-16戦闘機がベースになっており、F-16が扱えればFA-50も運用できるのがメリットです。
――韓国の兵器産業がビジネス的に優れている部分は?
照井 兵器を販売するだけでなく、兵器の製造を購入国で行なうライセンス生産も担っています。韓国側が工場を造り、購入国側に雇用を生み出すので最も歓迎されます。自動車やスマホをはじめとするハイテク製品で培ったビジネス展開を、兵器市場でもそのままやっているのが特徴です。
――それこそハイテク製品が強いとドローンとかも?
照井 もちろん、飛行型のドローンや、地上型のドローンとも呼べる多目的無人車両も積極的に開発しています。今後は、これらも主力となってくるでしょう。ただ、現状としては戦車や自走砲のような20世紀に完成された兵器を、格安で大量販売するほうが収益は大きい。韓国は、兵器産業界のジェネリック家電メーカー的な立ち位置ですね。
――ところで、韓国の兵器産業がここまでブレイクしたのは、どんな理由が考えられますか。
照井 私は自衛隊の現役時代に戦闘外傷救護や生物兵器・生物テロの研究を行なっており、現在も親交のある韓国陸軍から指導依頼をされることが多かったんです。現場へ行くと陸軍兵士はもちろん、兵器・装備品企業の社員も参加しています。
彼らは私が指導した内容をその場でアップデートし、企業の人間は「この止血帯なら、弊社の素材が最適!」と軍民一体となって論議する。そして、翌月に韓国へ行ったときには試作プランが完成しています。
このように軍民一体となった環境が整っており、止血帯のような個人装備から戦車や自走砲においても、そのような開発スタイルが徹底されているのが、韓国の兵器産業が躍進した理由でしょう。
ただ、韓国は儲けだけを追求しているわけじゃありません。韓国軍人や兵器企業の人間は、「自国開発の兵器が高評価されること。それが最大の抑止力」と口をそろえます。【兵器開発=国防】という意識が徹底されています。
――韓国の環境は、日本が見習うべき部分も多いと?
照井 日本には軍民一体となった開発環境は、ほぼありません。しかし日本も韓国と同じく米軍の整備拠点のひとつで、実は兵器を扱う基礎技術力は高い。それこそ日本の自動車メーカーの車体を、海外の兵器メーカーが装甲車に改造して大ヒットしています。
韓国はスコープなどの照準機器も売れていますが、日本は韓国以上の光学技術があり、照準器開発の潜在能力も高いでしょう。ただ、兵器開発は数年でなんとかなる話ではありません。それこそ韓国は常に50年先を見据えて開発を行なっていますから。
――格安&優秀で海外から高評価連発の韓国兵器。これは日本の防衛費削減の超裏技として、韓国兵器の導入もアリかもしれませんよ!